和歌山から岐阜に転居した佐々木さんは、中学生の時に人を「格付け」するような学校の空気の中で「陰口」に悩み、精神的に疲労してしまいました。
その後、コロナ禍で進学した公立高校で不調に陥り、「強迫性障害」の診断を受けます。
登校再開後は人の視線が気になり、首に「チック」症状が現れ、高校を中退しました。
今回は、学校環境について考えます。

佐々木駿介さん
【以下記事】
周囲の「格付け」に苦しく
「不登校とわたし」佐々木駿介さん(上)早大生 学生落語日本一(毎日新聞10/27付)
幼少期から人と話すことが得意な方ではありませんでした。
小学4年まで住んでいた和歌山県では、おとなしくても周囲は関西人らしく話しかけて仲良くしてくれました。
その後、岐阜県に引っ越しましたが、思春期にさしかかる中で探り合いのような空気があり、あまりなじめませんでした。
進学した公立中学校では、「陽キャ」「陰キャ」のような“格付け”を明確に感じるようになりました。
その雰囲気がとても苦しかった。

授業で発表する際にうまく話せないと、ヒソヒソと陰口が聞こえてくることもありました。
中学2年になると、頭の中で嫌な単語や場面が浮かんでくるようになりました。
それを打ち消すために、きれいな単語、きれいな場面を必死に思い浮かべる。
頭の中でずっとそれが繰り返され、精神的にも疲れていました。
ただ、当時は一過性のものだろうと思っていました。
自分の心や頭の中で起きていることを説明する語彙力もありませんでした。言葉にしにくく、なかなか両親には言い出せませんでした。

受験を終えて、公立高校への入学が決まりましたが、新型コロナウィルスの拡大により、一斉臨時休校が続きました。
自宅でぼーっと過ごしている方がいろいろと考えてしまい、苦しくなって「もう打ち明けよう」と両親に相談しました。
中学校の環境については両親も知っていました。
僕の顔色が悪いと心配していたこともあり、症状を話した時は自然と受け止めてくれたように思います。強迫性障害と診断を受けました。

高校では夏にさしかかる頃にようやく登校が始まりました。
テニス部に所属していましたが、体育系の生徒が多い中で、陰口を言われることもありました。
2学期に入ると、周囲の視線が気になるようになりました。
教室では前方の席でしたが、視線を感じてしまうのです。
次第に、ふいに首が動いてしまうチック症状がでるようになりました。

翌年2月、治療に専念する意味もあり、通っていた高校をやめることにしました。
中学は3年間インフルエンザ以外で休むことはなく、高校も休まず登校していたからか、両親は「よく頑張ったね」と言葉をかけてくれました。
編入先となる通信制高校は母親が見つけてくれました。
登校するのは2週間に1度だけ。あとはオンラインで授業を受けて、課題に取り組みました。
もう一か所、母親が見つけてくれたのは、不登校や高校中退からの大学進学をサポートする「河合塾コスモ」という予備校でした。
勉強以外にも少人数のゼミのようなプログラムがあると言われて「面白いかもしれない」と感じました。

【以上記事】 【聞き手・井川加菜美、写真も】→(中)に続く

佐々木駿介さん
2004年生まれ。早稲田大学文学部4年生。早大落語研究会に所属し、2月には学生落語の日本一を決める第23回全日本学生落語選手権「策伝大賞」で最優秀賞にあたる策伝大賞に輝いた。

「格付け」は「いじめ」の温床
佐々木さんの言う「格付け」とは、いわゆる「スクールカースト」(佐々木さんはその言葉を使用していませんが)のようなものだったと考えられます。
「スクールカースト」(和製英語)は、学校の閉鎖的集団の空気を保とうとする心理から自然発生的に作り出される生徒同士の暗黙の序列や階層構造(ヒエラルキー)です。
例えば、クラスで中心になる「一軍」、一般階層の「二軍」、それ以下の大人しいオタク系などの「三軍」以下など、暗黙にグループ化されます。
未成熟な子どものために、対人コミュニケーション能力や容姿、運動能力、部活動でのポジションなどが複合的に影響し、上下関係の序列の固定化につながります。

以前からどの学校にもクラスや学年集団内の序列は少なからずありましたが、テレビドラマに出てくる絵に描いたような「スクールカースト」が、すべての学校であるわけではありません。
しかし、今学校では、集団への不安から教室に入れない子どもが増えているのも事実なのです。
「スクールカースト」のような集団の上下関係を伴う序列化は、その時の構成メンバーや学校がある地域性、教員の指導の姿勢などが影響して形成されていくと言われています。
特に教員からの、「皆が仲良く」「クラスの団結」などの同調圧力が強くある学校では、子ども同士の自由な個々の横の人間関係が作れずに、流れに乗れる強者と乗れない弱者が生まれ、支配被支配の上下関係を固定化していきます。
かつて戦時中の右向け右の一定の価値観を強制される学校を想像して重ねてみるとわかりやすいかもしれません。
そんな中で大半の子どもが自分の身を守るためだけの人間関係を作り始めると、集団内で虐げられるグループに手を差し伸べる者は減っていきます。
そのような閉鎖的な環境は陰口やいじめ、嫌がらせの温床となります。
そんな不健康な学校生活を毎日過ごす子どもたちは、徐々にストレスに蝕まれ、疲れ果て、心身の不調に陥っていくのです。

佐々木さんが発症した精神疾患・強迫性障害とは
日頃から神経質で不安や心配が多く、几帳面で潔癖症な人がかかりやすい精神疾患で、自他ともに病識がなく進行してしまうことが多い病気です。
「強迫性障害」には、「強迫観念」と「強迫行為」の二つの症状があり、生活上の機能障害を引き起こしていきます。
「強迫観念」は頭から離れない考えのことで、その内容が自分では「不合理」だとわかっていても、頭から追い払うことができません。
「強迫行為」は、強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為のことです。自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられません。
例えば、不潔が怖くなって過剰に手を洗う、侵入が怖くて戸締りを何度も確認するなどが挙げられます。

佐々木さんの場合も二つの症状が中学2年生の時に現れています。
「授業で発表する際にうまく話せないと、ヒソヒソと陰口が聞こえてくることもありました。中学2年になると、頭の中で嫌な単語や場面が浮かんでくるようになりました。
それを打ち消すために、きれいな単語、きれいな場面を必死に思い浮かべる。頭の中でずっとそれが繰り返され、精神的にも疲れていました。」
陰口を聞いているうちに、そのことが頭から離れなくなり(強迫観念)、きれいな単語やきれいな場面を思い浮かべる。(強迫行為)
このことをずっと繰り返すようになって精神的に追い詰められていったのです。
高校では、不安や緊張などのストレスから強迫性障害が悪化し、他者からの視線恐怖と首の運動チックが始まります。

常に学校環境を見直す必要があります
発達特性や感覚過敏、繊細なHSC傾向などをもつ子どもへの配慮や目配りが必要なことは最近よく知られるようになりましたが、個々の不適応の原因は依然として個人にだけ向けられがちです。
佐々木さんのように学校環境に追い詰められていくケースは後を絶ちません。
はっきりと「いじめ」が顕在化していない学校でも、集団の質が学校不適応の増減を左右します。学校不適応の原因を個人の問題に帰する前に、教員は学校環境作りに不作為がないのかどうか日々検証しなくてはなりません。
子どもの集団の健康度を保つためには、日頃からの行動観察や子どもとの雑談などを通して得られる情報などを集めて、子どもが日々生活する環境であるクラスや学年集団の状態をチェックしていく必要があります。
佐々木さんの強迫性障害の原因は明らかに学校環境であり、個人の気質や性格に起因するものではありません。
それは、佐々木さんの異変に誰も気づかず、その孤立に手を差し伸べないことがすべてを物語っています。
それでも登校を続けて精神を病んでいった佐々木さんの苦しみは如何ばかりだったのでしょう。
























































