リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

ひきこもり支援から学ぶ~「解決型支援」の限界(後編)

不登校の中学2年生Kくんの母親の場合

「支援」の意味、「解決」とは何かをあらためて考えさせられたケースです

(ケースは実際のものとは変えてあります)

初回面接:母親の悩み

 中学2年生のKくんの母親は、顰め(しかめ)顔で相談を始めました。

以下、母親の話した内容です。

 

Kくんが小学校高学年の時に夫と離婚、現在は実家で自分の母親と息子のK君との三人暮らし。家計は正社員の自分が支えている。

Kくんは学習に苦手な面があり、中学ではなかなかクラスに馴染めず、1年生の夏休み前から不登校になった。夏休み明けからは断続登校。あまり外にも出たがらず、冬休みには昼夜逆転して夜中はゲームで過ごし、休み明けから完全不登校になった。母親が登校を促したり、外出に誘ったりしても覇気がなく、暖簾に腕押しの状態が続く。そのうち学校からの働きかけも殆どなくなってしまった。

2年生になっても状態は変わらず、ベテランの新担任は4月当初に家庭訪問して「生存確認」でKくんの顔を見てからは一度も訪れない。母親は仕事帰りに時々学校に寄って、プリント類を受け取り、担任には家での様子を伝えているが、親身になってくれないどころか「放置」に近い状態と母親は感じている。

Kくんは口煩い母親と顔を合わせるのが嫌で、一緒に過ごすのは母が仕事から帰宅して夕食を一緒に摂る時くらい。殆どの時間は自室でゲームに興じている。祖母(母親の母親)とは仲が良く、昼間は昼食(Kくんには朝食)で楽しそうに会話しているらしいとのこと。

母親は、自分の母親から、Kを何とかして学校に行かせないといけないと言われる度に口喧嘩になり、折り合いがどんどん悪くなっている。最近は離婚した夫からの養育費も途切れていて困っている。Kくんも母親の言うことを聞き流すだけなので最近は持て余している。

最近の窮状を母親は長い時間をかけて語り続け、最後には今の職場の上司の悪口まで付け加えました。

 

 少しこれからの支援の方向を整理するために、私は母親の来談と今の窮状を労いながら、今一番困っていることは何かと質問しました。

 すると、母親は迷わず、「(Kくんの)高校進学です」と言いました。

 次回は、面接でその話をすることにしました。

二回目面接:Kくんの高校進学と特性

 約束どおり、面接ではKくんの高校進学について話し合いました。

 ミスマッチを避けるために、最初にKくんの生育歴、発達歴、家族歴など今に至る経過を伺いました。その中で、母親はKくんの不登校に親の離婚が影響しているのではないかという自責の念を語りました。

 私は「それは多少なりともあるかもしれませんね」と言いつつ、幼児期の言葉の遅れや小学校の低学年からのKくんの集団への馴染みの悪さ、登校渋り、家庭でのこだわりの強い生活ぶりなどに対する母親の認識を確認しました。

 

 母親はKくんの特性について話し始めました。母親の話は、時系列も整理されていて詳細なものでした。初回面接では大雑把に語られただけのKくんの姿が、母親の細かい観察を通した事実の上に、実像として共有していくことができました。

 幼児期からKくんのことを母親は何度か療育機関に相談にも行っていました。私は母親を労いました。学校では集団に馴染むことが苦手なことや、学習面の苦手さなどを母親と再確認し、不登校の原因のベースにはKくんの特性が関係している可能性が高いことも指摘しました。

 

 母親は、高校進学についてもKくんが通えそうな通信制高校を既にいくつか調べてピックアップしていましたが、ミスマッチはなさそうでした。ただ、高い学費をかけても今のままのKくんでは通えないのではないか、無駄になるのではないかと心配で、学費も実際払えるかどうかのギリギリのところなので、どう進めていけばよいか迷って相談したかったとのことでした。

 次回面接は、今後の具体的な対応について、Kくんの今の生活を踏まえながら話し合うことにしました。

三回目面接:Kくんの生活

 母親の口から、近所のコンビニに買い物に行くくらいで殆ど外には出ないKくんの昼夜逆転気味の生活が細かく語られました。

 学校へはまったく行く気も見せず、母親と高校進学の話もできていません。夜中の入浴や、深夜のゲーム、夜食などの生活で光熱費や食費が嵩んでいる実態も判明しました。今は、母親は自分が口を開くと小言ばかりになってKくんがとても不機嫌になるので、出来るだけ何も言わないようにしているとのことでした。

 私は「お母さんが困っていることを、きちんと話してみたらどうでしょうか」と提案しました。

 Kくんに対する母親の思いや高校進学、現在の母親の収入と生活費の額、最近の光熱費、高校の学費、父親の養育費の滞りなども、話せる範囲でできるだけ具体的に話すように勧めました。

 

それ以降の面接:家族と向き合って、母親なりの「解決」にたどり着く

 母親は私の予想を上回る勢いで、自分が今困っている気持ちと共に、Kくんの高校進学への心配、養育費のこと、実際の生活費や学費について具体的に数字を書いて見せながら、すべて話したとのことでした。その時には祖母も一緒にいてくれたそうです。

 なぜそれができたのかと訊ねると、それはKくんが母親からの打ち明け話を、煩がることなく真剣に身を乗り出してじっと聞いていたからだったそうです。母親にとっては初めて見るKくんの姿でした。

 そして、次の日からKくんは、母親に言われた訳でもないのに、家族の後にすぐお風呂に続けて入るようになり、夜食を止めて早めに寝るようになったそうです。

 面接では、母親はまるで奇跡が起こったかのように、一連の経過を朗らかに語りました。そしてそのことを祖母と一緒に喜び合ったことも付け加えました。

 母親は次の面接に、予告なしに、何故か祖母(母の実母)を伴って来談しました。

 私は、二人を前にして、それぞれの目から見える最近のKくんの様子を訊いていきました。また、Kくんの特性の認識についても確認しながら、高校への進学について話し合いました。

 その時、祖母は母親(娘)を横目で見ながら、「この子が頑張ってきたので手伝ってやりたい」と言いました。私は、それを聴いて微笑む母親(娘)を眺めながら、「お母さん、ずっと娘さん頑張ってきましたよ」とお母さん(祖母)に言いました。

 その後の面接は母親だけで来談し、Kくんの様子を伺っていきました。

 K君は不登校の儘でしたが、高校への進学を意識して少しずつですが机にも向かうようになりました。

 面接終結の時に母親が笑顔で言ったことを私はよく覚えています。

「なんか不思議です。外から見たら息子は不登校だし、私はいつもバタバタしちゃってるし、母とは相変わらず口喧嘩しているし、何にも状況は変わってないんですけど、本当に、なんか気持ちがすっかり変わっちゃいました。」

 

 最後に、声を潜めるように、「最近は、大人はビール飲みながら、家族で三人麻雀やって遊んでます。」と言って、豪快に笑い飛ばしました。

 面接はKくんが中3になって、「さほど変わらない毎日」を送っている様子を伺って終結しました。その後はどうなったのかは定かではありませんが、母親からの相談依頼はありませんでした。

 

 このケースは、「解決型支援」を目指す支援者からは、「支援」になっていないと言われるかもしれません。しかし、子どもの不登校や家庭の経済状況などの窮状は簡単には変えられない状態です。

 そんな中でも、これ以上の状況の崩壊を避け、そこに日々生活する人たちの価値観や立ち位置を少し変えることで彼らの健康度を保てれば、この人たちには「次がある」と考えるのは、そんなに的外れな考え方ではありません。

 実際に、当事者の多くが求めているのは、支援の視点が社会的に共有される価値観の押しつけから、内省的な個人的な価値観の尊重にスタンスを移すことです。

 そのことで、当事者が孤立せず、自己の存在を肯定的に捉えながら明るい気持ちで日々を生きられるとしたら、「つながり続ける支援」「切らない支援」で培った人と人が築いてきたピアな関係性が機能したと言えます。支援者との関係性が支点となって、家族、友達、ご近所、職場同僚、趣味の仲間との日常的で現実の関係性が拡がっていくかもしれません。

 

 Kくんの母親のケースでは、社会が一般的に望むような形での解決は見えてきませんでしたが、元々あった当事者自身が持っていたリソースに目を向けることで、支援自体は終結しました。

 家の外から聴こえるのは、三世代で「三人麻雀」している麻雀パイの音と笑い声だけかもしれませんが、それを思い浮かべると少し温かい気持ちになれるのです。人それぞれに解決の形があることを教えられたケースでした。