ASDの特性とギフテッドの特性は同じなのか?ADHDやLDのような特性はあるのか?
ASDやADHD、LDなどの発達障害特性との違いや関連について考えます

「ギフテッド」と「発達障害」
「ギフテッド(gifted)」とは、先天的に高い知能や特定の分野で優れた才能を持つ人のことを言います。「神様からの贈り物(gift)」という意味です。「ギフテッド」の概念自体には「発達障害」は含まれません。
ギフテッドは「英才型」と「2E型」に分類されます。「英才型」は、理解力や記憶力に優れ、全般的な分野で高い知能を示すタイプ。「2E型(2E):Twice-Exceptional」は、二重に特別な人、二重の特別な支援を要する人という意味で、ギフテッドと発達障害の特性を併せもつタイプです。
能力的に安定している「英才型」でも、一般の人との能力差に悩む「生きづらさ」を持っていますが、「2E型」は、分野によって大きな個人内能力差があり、特定の分野で傑出した才能を示す一方、苦手分野との差が大きい凸凹があるために、生活上の「著しい困難」を感じる傾向があります。
ギフテッドの定義はまだ確立していませんが、「普通より優れた能力」「創造性」「課題への傾倒(集中力)」の相互作用を持ち、才能教育研究が進んでいるアメリカの基準ではWISC(ウェクスラー式知能検査)スコアがIQ130以上であるとされています。
※全米小児ギフテッド協会は、ギフテッドの特徴として以下の14要素を挙げています。
- 物覚えのよさ
- 高い記憶力
- 豊富な語彙力、複雑な文章を構成する能力
- 数字やパズルなどの問題を好んで解く力
- 深く激しい感情
- 物事への過敏な反応
- 幼少期から理想や正義感をもつ傾向
- 持続性のある注意力や集中力
- 自分の考えにふけるといった妄想傾向
- 人に探りを入れる傾向
- 実験に対する興味関心
- 鋭さと独自性のあるユーモアセンス
- ゲーム的思考や複雑な構図を用い、人や物を系統立てる傾向
- 鮮明な想像力(幼少期に空想の友達をつくる)
※出典:石田祥代.『特別な教育的ニーズのある優秀児とその教育支援に関する動向』から

特定分野で突出した才能を見せる「2E型」ギフテッド
全般的な分野で能力を発揮する「英才型」に対して、発達障害(ASD・ADHD・LD・MR)のある「2E型」は、特定分野で突出した才能(先天的知能)を発揮します。
【ギフテッド2Eの概念図】

※2e(紫)の概念図。ただし各集合が互いに素とは限らない
(この図の「発達障害」はASD・ADHD・LDを指し、知的障害(MR)を分けています)
※Wikipediaから
以下「2E型」が才能を発揮する「特定分野」を理解するために、具体的に8つの「先天的知能」の例を挙げておきます。
【先天的知能の例】
(1)言語・語学知能
幼少期から言語習得が早く、独りで本を読む。理論的で豊かな言語表現を用いる。
(2)論理数学的知能
数や記号、図形を扱うことに秀で、物事を論理的に分析し、規則性や法則性を導き出すことが得意。
(3)音楽・リズム知能
絶対音感やリズム感をもち、作曲や楽器演奏、歌などに才能を発揮する。
(4)身体・運動的知能
身体を使った表現力が豊かで、スポーツ、ダンス、ボディランゲージが得意。手先が器用。
(5)視覚・空間的知能
平面や空間の認識能力に優れ、図の理解や作画、映像処理などが得意。
(6)対人的知能
他者への深い洞察力があり、感情・思考を敏感に察知し、それに応じた言動をとれる。
(7)内省的知能
自分の感情や志向・行動パターンなどを理解し、コントロールする能力が高い。
(8)博物学的知能
気象や地理など複雑な事象を洞察し、相違点や共通点を見出し分類することが得意。

典型的な「2E型」ギフテッドだった「ヴァイオリニストの王」
ヤッシャ・ハイフェッツ ( Jascha Heifetzas(リトアニア語)1901年2月2日ロシア帝国・現在のリトアニア生まれ(ユダヤ人) ━ 1987年12月10日死去、アメリカ・ロサンゼルス) は、20世紀を代表するヴァイオリニストであり、「ヴァイオリニストの王」と称されました。

3歳でヴァイオリンを始め、神童と呼ばれる。幼い頃からヴァイオリニストの父が練習で音を外すと泣き出したといいます。
7歳で「メンデルスゾーン・ヴァイオリン協奏曲」を演奏しデビュー。9歳でサンクトペテルブルク音楽院に入学。12歳でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と演奏。10代でヨーロッパの大部分を訪れ、16歳でカーネギーホールでアメリカデビューという離れ業を演じました。
彼の神がかり的な演奏のために、同時代のヴァイオリニストたちは、例外なく「ハイフェッツ病(劣等感)」にかかったといいます。
その演奏活動は、小品・ソナタ・室内楽・協奏曲など、国籍・ジャンルを問わず幅広く多岐に渡り、長期に渡って多数の録音を残しています。どんな難曲でも超絶技巧で難なく演奏してしまう天才でした。
ハイフェッツはヴァイオリンの音質へのこだわりから、2番弦(A線)と3番弦(D線)は現代の主流である金属巻の弦を使わず、プレーン・ガット弦を使用しました。1番弦(E線)はハイフェッツが柔らかめのスチールを好んだことから、ゴールドブロカット(0.26)を使用しています。
実際に録音で、メンデルスゾーン・ヴァイオリン協奏曲、チャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲などのハイフェッツの演奏を聴くと、氷上を滑るような繊細な高音部と柔らかい中音部・低音部の和音の完璧なまでの美しい完成度があり、一度聴いてしまうと他のヴァイオリニストの演奏が色褪せてしまうほどです。(これは私の主観です)

生涯は、16歳のアメリカデビュー時にロシア革命を避けてそのままアメリカ在住の道を選び、1925年にアメリカの市民権を得ました。来日は2度あり、関東大震災のチャリティ演奏会を帝国ホテルや日比谷野外音楽堂などで行い「帝国復興の恩人」と言われています。57歳から大学で後進の指導に尽力し、71歳で演奏活動から退きました。
リヒャルト・シュトラウスの『ヴァイオリンソナタ』を1953年のイスラエル公演で演目に入れ、ナチス時代の音楽家シュトラウスの演奏がタブーとなっている中で反発を呼び、暴漢に襲撃される事件がありました。この時だけは『ヴァイオリンソナタ』の演奏を見合わせました。その後ハイフェッツは1970年までイスラエルを訪れることはありませんでしたが、それでも『ヴァイオリンソナタ』を演奏し続け、1972年の引退公演でも演奏し、録音も残されています。
音楽のみならず興味を持ったことに対する極度の完璧主義と潔癖性癖の持ち主で、人付き合いは苦手でした。それらのASDの特性と早期に完成された演奏スタイルと音楽に対する哲学的造詣の深さからも、高度な精神活動を営む「ギフテッド2E」であったと言われています。

「ギフテッド」と「発達障害」の違い・特性の類似点と相違点
ハイフェッツのように、興味・関心のある物事への記憶力や集中力、深い洞察力や論理的思考、完璧主義などは、「ギフテッド」と「発達障害」の双方に見られる特性です。
また、ギフテッドに見られる「知覚的過度激動」と言われる光や音など感覚器官への刺激に対する反応は、ASDがもつ「感覚過敏」とよく似ています。
しかし、ASDやADHDは過度に集中しがちですが、ギフテッド自体の集中力には自己規制が働きます。また、ASDの特性の「こだわり」のひとつである特定の物事への狭く深い興味関心に比べて、ギフテッドが向ける興味関心は幅が広く柔軟性があるといわれます。

ギフテッド「2E型」の場合は、人によってASDやADHD、LDの特性がギフテッドの特性と混同・混在されて、発達の凸凹や過集中や衝動性などが目立つために、「ギフテッド」ではなく「発達障害」と判断され、持っている能力に気づかないことがありました。
「2E型」はひとつもしくは複数の分野で才能をみせる可能性がありますが、学習障害(LD)・知的障害(MR)の傾向を持っているギフテッドが学校教育の段階で、その才能に気づかれないことは、漸く最近日本でも問題になってきています。
文科省は2021年に「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」を省内で発足させ、2023年度にギフテッド関連の予算計上し、支援策の作成をスタートしています。
しかし、「優れた才能」を埋もれさせることへの社会損失や、才能を生かすことへの経済効果などだけが「2E」の才能発掘の動機になった議論を進めているために、その人のもつ生きづらさや苦悩の問題はその後ろに置かれているようにみえます。
すべての子どものもつ特性に対する支援の問題としてではなく、社会への有用性の視点で子どもを選別しようとしている時点で、教育理念の根本を逸脱しているように感じます。
その人の隠れている能力や才能を見つけることは、「2E」のギフテッドに限らず人生においてとても大事なことです。たとえそれがギフテッドのように抜きん出たものでないとしても、その人の生きる助けや救いになる可能性を持っているのです。

ギフテッドの子どもには、「英才型」「2E型」ともに周囲の支援が必要です
ギフテッドの子どもたちは、さまざまな悩みを抱えがちです。
- 学校の授業が退屈でやる気を失う(2Eは授業についていけないこともあります)
- 周囲との話がかみ合わず、友達ができにくく、孤独になりがち(ASDにもありがちです)
- 自分の得意なことと苦手なことのギャップが激しく苦しむ(ASD・ADHD・LDにも類似)
- 周囲の過度の期待や無理解に苦しむ
- 鋭敏な感覚のため、ASDの感覚過敏と似た苦しさがあり学校生活に支障が生じる
このような状態が長く続くと、学校への不適応感が高まり、外部環境への適応力が低下して、体調不良や不登校などにつながっていく可能性があります。
発達障害やグレーゾーンの子どもに対して個別に理解を深め、必要な支援や配慮を行うのと同様に、ギフテッドの「英才型」「2E型」それぞれにも個々への理解と支援が欠かせません。

それぞれの特性の概念は、ひとりひとりの人生を生かすためにあるもの
「発達障害」、「ASD」、「ADHD」、「LD」、「ギフテッド」「2E」・・・多くの概念、診断名がそこここで聞かれる時代になりましたが、「概念」だけが独り歩きをしている論調も多くみられます。少しかじった「概念」で括って、知った気になって目の前の人にそれを当てはめてみても、誰ひとりとして理解することはできないでしょう。
それぞれの概念の特性や傾向を持つ人たちを理解し、歩み寄って向き合うことのためにそれぞれの「概念」があります。それで括って彼らを選別するために使うものではありません。
「概念」の正確な理解こそ、誰もが尊重されるべき違いを持った存在であることの学びとして人間同士を結び付け、これからの社会を人間が少しでも健康に生き延びるための知性になるのです。

「ギフテッド」は人口の約2%で、「2E」は約0.4%と言われています。(ASDの約2割、ADHDの約1割が「2E」という調査もあります)
天才ヴァイオリニスト、ハイフェッツの他の追随を許さないほどの才能の開花と、長きにわたる活躍と音楽界への貢献は、すべての子どもが経験する偶然に生まれ育った家庭環境と、彼の才能を理解し、人として支え続けた社会の奇跡でもあるのです。
(※参考:Neuro Dive・就労移行支援事業所のコラム、朝日新聞「先生コネクト」、ウィキペディアなど)
