リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

子どもの自殺予防はできるのか(後編)~小中高生の自殺者数513人(2023年) 空前の高止まり

学校の支援の現状、自殺と精神疾患との関係について

さらに、社会問題として自殺と、子どもの自殺予防の難しさを考えます

学校での子どもたちの支援の状況

 小中高生の自殺の予防を考えるために、まず現在の学校(主に小中学校)の子どもたちの支援の一般的な現状を前編よりも細かく触れていきます。

 支援の側から見える現在の学校では、実際にとても多くのことが起こっています。

不登校

 まず、目立つ変化は、「不登校」の激増です。

 年間30日以上欠席する子どもは、小学校でクラスに1人、中学で2人が全国平均。例えば、小学校3クラス×6学年で18人、中学校4クラス×3学年で24人が今のスタンダードになっています。

 不登校の子どものタイプも個々に異なり、学校にまったく登校しない子ども、断続的に登校する子ども、時間指定で登校する子ども、学校内の別室へ登校する子どもなど様々です。

 学校による偏りがあることを考えると、1校で50人ほどの不登校の子どもがいる場合も考えられ、きめの細かい日々の対応が益々難しくなってきています。タイプは多様ですが、不登校の子どもは総じて自己評価が低いことが共通点です。

【家庭問題】

 次に、コロナ禍以降、家庭の問題を抱える子どもが多くみられます。

 親の死去、親からの暴言、暴力、親のDV、ネグレクト、家族からの性被害・加害、エデュケーショナル・マルトリートメント(教育虐待)、三世代問題、ステップファミリーの家族関係の問題、根深い親子関係確執の問題など、多岐に渡る複雑な問題が顕在化しています。

 もちろんすべての子どもが教育相談のベースに乗っている訳ではなく、不登校になっていることも多いため、支援につながりづらいケースが多く、如何に相談につなげていくかが問題になっています。

 公立小中学校では、きょうだいが小中学校に跨って在籍していることも多いので小中で連携して情報共有しながら、外部機関を入れて対応する場合もあります。

【暴力行為・非行など】

 さらに、学習支援が必要な子どもへの対応、学校での暴力行為やいじめなどの問題行動、校外での深夜徘徊や交友関係の問題、非行の問題など枚挙に暇はありません。コロナ後の状況は、やや荒れ気味の学校も増えてきています。

【子どもたちの健康度の低下】

 コロナ禍以降で特徴的なのは、子どもの多様な状態像が顕在化してきていることです。それぞれの課題の向こうには、子どもたちの多くが深刻な変調や疾病に見舞われ、生きることへの危機を背負っていることが見えてきています。

 抑うつ状態、摂食障害解離性障害強迫性障害パニック障害PTSD(心的外傷後ストレス障害)、統合失調症、薬物依存症(ゲーム依存、性的依存なども)などの精神的な疾病や、頭痛や腹痛・嘔吐、胃痛などの身体的な不調など、多岐に渡る形で子どもたちの健康度の低下が多くみられます。

希死念慮自傷行為・自殺企図】

 中でも、自己評価が低く(負担感)、学校や家庭での居場所(所属感)がないと感じている子どもたちには、「希死念慮(死にたい気持ち)」が強く出やすく、リストカットなどの自傷行為を繰り返し、実際に自殺企図をする子どもも出てきています。幸い軽傷で済む子どももいますが、大けがをしてその後も入退院を繰り返す子どももいます。

 まさに自殺の3つの主要因が揃ってしまう状況が拡がってきています。学校の現場では、希死念慮、自殺未遂、自殺企図の子どもへの対応が、多くの学校にも見られるようになっており、もう珍しいことではなくなりつつあるのが現実です。

 

 小中高生の自殺者が2023年に513人になりましたが、この数字の周辺にはこの数字の数倍の自殺企図・未遂の子どもがいるのではないかと推測されます。希死念慮自傷行為がある子どもの数は、研究者によると全体の子どもの1割以上とも推測されています。

自殺の3つの主要因(所属感の減弱・負担感の知覚・潜在能力)が強化される精神疾患

 自殺予防を考えるとき、知っておかなくてはいけないことは精神疾患との関係です。

 現在、全世代で自殺企図をする人の90%程度が、以下に紹介する1つ以上の精神疾患をもっていると考えられています。精神疾患に罹患することで、「自殺の3つの主要因」がより強化され、自殺のリスクを高めていきます。

 

 実際は臨床医から正式に診断を受けていないことが多くあり、周囲に不調を隠して一見何事もなく生活している中で重篤化、重複化している場合があります。診断を受けている場合はもちろんですが、私たちは周囲の人たちの言動や様子の変化や違和感があるときにそのままにせず、できる範囲で本人に不調の有無を訊いてみたり、その人に近しい人に異変を伝えたりすることを考えることが大切です。

 毎年多くの人が自殺をする現状では、学校や職場では自殺予防を頭の隅に意識して、周囲の人たちとの生活をしていく必要があります。

 以下に、自殺につながりやすいと言われている精神疾患を挙げておきます。

気分障害うつ病双極性障害

 「うつ病」は、一日中気分の落ち込み、強い疲労感、関心の喪失で何をしても楽しめない精神症状とともに、不眠(過眠)、食欲不振、幻聴などの身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じます。

 「双極性障害」は、ハイテンションで眠らなくても活動できる躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態を繰り返します。この二つの気分が交互にスイングする状態を起こす双極性障害の人は、自殺企図の確率がとても高いと言われています。

摂食障害

 ダイエットなどをきっかけに、食事量や食べ方などの食行動の異常が続き、自分の体重や体型の認知を中心に、心身双方に強く影響が及びます。「神経性無食欲症(拒食症)」と「神経性過食症過食症)」など様々な症状があります。自己評価が低いのも特徴です。。

統合失調症

 心や考えのまとまりがつきにくくなる病気です。そのため気分や行動、人間関係などに影響が出てきます。幻覚幻聴や妄想の「陽性症状」と、意欲や感情表現が減衰する「陰性症状」があります。初期段階での日常生活の損失感によって、自殺の危険性が最も高くなると言われています。また「陽性症状」が強い中で「うつ病」を併発すると更にリスクが高まり、自傷行為、自殺企図の危険性も高まります。

境界性人格障害

 その人の性格ではなく、認知、感情のコントロール、対人関係などの精神機能の偏りが原因で、不安定な感情、思考パターンの乱れ、衝動的な行動を生じる特徴があります。他の人たちと違う反応や行動をすることで、本人や周囲が苦しむ場合に診断されます。幼児期の虐待の経験を持っている場合もあります。自傷行為や自殺企図のリスクが高いと言われています。

精神疾患・自殺企図を社会の問題として捉える視点が重要です

 精神疾患は個人の気質や特性だけで発症するものではなく、生育過程や実生活を送る上での社会的な環境要因が原因とされています。

 子どもは様々な気質・特性をもって生まれ、それぞれの家庭環境・養育環境の中で育っていきます。その間に様々な事柄が起こり、本人が重い疾病に罹患したり、身近な人を突然亡くしたりすることは避けられるものではありません。しかし、環境さえ整っていれば避けられただろう過酷な体験をしてしまうことも多いのです。

 謂われのない暴力や暴言、ネグレクト、性被害などの虐待、DVや家族の不和、無関心、親の過干渉、価値観の強要など、日常的に繰り返され積み重ねられる苦しみに見舞われるケースが今増えています。養育期に身についてしまった、自分の存在に対する否定的な思いは、精神疾患の土壌になり得ます。また、大人になっても根強くその人の中に残っていきます。

 

 家庭や学校の日常が健全に機能することは、ハイリスクな子どもたちにとっての最も効果的な自殺予防になっています。したがって、その機能を継続的に保障し支援する社会全体のシステムがとても重要になります。

 子どもの自殺の増加は、その機能の劣化の現れそのものです。問題を個人や家庭・学校にすり替えることなく、常に社会全体の問題として捉える視点を失わないことが大切です。

子どもの自殺の特殊性は「未成熟」

 子どもの自殺が、大人と決定的に異なるのは、子どもが「未成熟」であるという点です。小中学生は思春期に入り、自我が育ち、自分という人格を統合していく初期段階です。高校生の年齢では更に自分のためのより良い社会的な生き方の模索を始める時期です。

 「未成熟」であるが故に急激に追いつめられていく底知れない恐怖感や不安感のために、自傷行為に見られる葛藤の激しさや自殺企図の衝動性の高さが多くのケースに見られます。

 自分が社会を生きる意味を考え始め、その人生の先にある「死」への概念を形成していく端緒につくかつかないかの時期に人生にピリオドを打つほど大きな絶望があったと想像されます。「未成熟」ゆえに、酷く悲惨なのです。

 子どもに比べると大人は、同じように追い詰められた状況の中でも、「より良い人生の選択」として自殺を選ぶ傾向があります。

 ある生命保険会社の統計では、生命保険契約では、支払い保険金が満額支給される1年後に自殺者が急増する傾向が明らかにあるそうです。保険金の額よりも自分の命が軽いという明確な分析がそこにはあり、それが残された家族には自分が生きているより役に立つという悲しい経済学を感じさせます。生産性・コスト優先主義の社会が生む虚しい悲劇ですが、子どもの自殺とは大きく異なる点です。

 また、後から考えると自殺に到る道筋が見えてくることが大人の方が多く、子どもの場合は見えにくいことが多いようです。

 

 子どもは困りごとがあっても早い段階で大人が気づいて対応して、支援につながる可能性もあるため、希死念慮自傷行為のサインが現れた段階でも多くの子どもがケアを受けています。そういう子どもの自殺企図の確率は明らかに下がります。

 したがって、傍から見ると、子どもの自殺企図は、大人からは大丈夫そうに見えていたノーマークの子どもに唐突に起こるケースとても多くなります。

 その子どもには、誰にもサインを出しづらい環境だったのかもしれません、また相談することや支援への不信感や、他人に相談する価値が自分にはないという援助希求性の低さを既に身につけていたのかもしれません。

 黙ったまま逝ってしまった彼らには、きっかけになる出来事はあったとしても、自殺企図の本当の原因の手がかりがないケースが一番多いのです。

子どもの自殺が残すもの

 この危機的な状況の中でも、人々は自分の家庭や学校は大丈夫だろうという正常性バイアスがかかった状況でバランスを取って日常を送っています。希死念慮自傷行為は、生きづらさのサインですが、周囲の反応は様々で、きちんと受け取ってもらえない場合も多くあります。

 でも一旦、現実に自殺企図があったときの周囲の衝撃は計り知れないほど大きいものです。

 「死」を選ぶことが、本人にとっての生き方の究極の選択だったとしても、そのことが及ぼす周囲の人々に与える衝撃の大きさは、一生消えない程の重みがあります。「なぜ気づけなかったのか」、「自分の言動が引き金になったのではないか」と、救えなかったことへの罪悪感の答えが出ないままに、絶望という心の大きな傷になっていきます。

 知らせを聞いた家族、知人や友人、担任の先生、クラスメイトたちはもちろんのこと、発見した家族や警察官、偶々目撃した人たち・・・ニュースでは知らされない多くの人たちが深く傷つき、PTSD(人的外傷後ストレス障害)の急性期反応や、長期的なフラッシュバック、体調不良を抱えて生きることになります。その傷は深く、きれいに癒えることはありません。

 

 この不幸な国では、1年間に500人以上の次代を担う子どもたちが自殺を選択し、希死念慮自傷行為を繰り返す膨大な数の子どもたちを今も生み出し続けています。

 私たちできることは、自分の生きる社会の存立の意味を、根本から問い直すことしかありません。