リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

強迫性障害(Obsessive-compulsive disorder)は治療できる病気です

「病気だという自覚(外在化)」が治療の第一歩です。

ただの心配性や不安症、潔癖症ではなく、生活上の機能障害を引き起こす10大疾患の一つです。(WHO)  

(ケースは実際のものとは変えています)

強迫性障害の特徴

 日頃から不安が強く、心配性で神経質な人や几帳面で潔癖症な人は多くいます。しかし、「強迫性障害」は、神経質や潔癖症の領域を徐々に超えていくために、自他ともに気づきにくく進行しやすい病気です。

 強迫性障害には、「強迫観念」と「強迫行為」の二つの症状があります。

 「強迫観念」とは、頭から離れない考えのことで、その内容が自分では「不合理」だとわかっていても、頭から追い払うことができません。

 「強迫行為」とは、強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為のことです。自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられません。

 例えば、不潔が怖くなって過剰に手を洗う、侵入が怖くて戸締りを何度も確認するなどが挙げられます。

 強迫性障害は、治療によって改善する病気です。「考えずにいられない」「せずにはいられない」ことがつらくなったり、日常生活に支障や不便を感じたりする場合には、専門機関に相談する必要があります。

 強迫性障害の原因は、ストレスの大きい環境や性格・気質、ホルモンなどの生理的要因とされていますが、人によって様々な要因があると言われています。治療は時間をかけて寛解に向かうとされています。

 専門機関に相談した場合、強迫性障害の治療には、認知行動療や薬物療法抑うつ・不安を伴う場合)と共に、低ストレスの生活改善を進められるのが一般的です。

代表的な強迫観念と強迫行為

 不潔恐怖と洗浄行為
 汚れや細菌汚染への恐怖から過剰に長時間の手洗い、入浴、洗濯などを繰り返します。ドアノブや手すり、椅子やテーブルなど不潔だと感じるものを恐れて触れなくなります。

確認行為
 外出時に戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを過剰に確認します。見張る、指差し確認、手でさわって確認するなどエスカレートしていきます。服の着替えや、身支度にも確認のために時間がかかります。仕事のミスが不安になって、帰宅後でも職場に頻繁に戻る人もいます。

加害恐怖と確認行為
 外で自分が誰かに危害を加えたかもしれないという不安が頭から離れず、新聞やテレビに事件・事故として出ていないか確認したり、警察や周囲の人に確認したりします。

儀式行為
 自分の決めた手順で物事を行わないと、恐ろしいことが起きるという不安から、どんな時でも同じ方法で仕事や家事をしなくてはならなくなります。

数字や物の配置、対称性などへのこだわり
 不吉な数字・幸運な数字に、縁起を担ぐというレベルを超えてこだわります。物の配置に一定のこだわりがあり、定位置やシンメトリー(対称性)に必ずなっていないと不安になります。

その他:買い物や家事などでの強迫行為

 今買わないと商品が売れてなくなってしまうのではないかと大量に買い物をしてお金を使ってしまうこともあります。家事を完璧にこなさなければならないと自分の睡眠時間が殆どなくなってしまった女性もいました。いずれも強迫観念から自分の行動の制限ができにくくなってしまうのです。

日常生活や人間関係への支障や拡大するまで、病気と思われにくい病気です

 他人の様子に敏感に気づく人でも、自分のことに気づきやすいとは限りません。人間は得てして、そんなものではないかと思います。

 強迫性障害は、誰もが生活の中で普通にすること(戸締まりの確認や手洗いなど)の延長線上にあります。少し神経質なのか、行き過ぎかの判断は難しいところですが、 日常生活への影響や本人や周囲の困り感が分岐点と考えるとわかりやすいかもしれません。

 確認をしたり、ルーティンの決まり事を作ったりすること自体は悪いことではありません。強迫性障害病前性格は生真面目で几帳面な人が多いために、自分ではなかなか病気に気づけず、そのため知らない間に病気が進んでしまうことが多いのです。

 手洗いや戸締まりの確認に時間をとられたり、火の元を確認しに何度も家に戻ったりする結果、外出に手間取り時間に遅れてしまうといった問題が生じてきます。

 外出時の確認が長くなると、仕事や学校に行くこと自体が徐々に難しくなってきます。日々の強い不安や強迫行為にかけるエネルギーのために心身が疲労して健康度の高い日常生活も送りにくくなります。

 

 また、火や戸締まりの確認を家族にも繰り返し促したり、アルコール消毒を強要したりして、周囲の人を巻き込むこともあります。

 手洗いや入浴時間が長くなることで家族の生活にも影響が出てきたり、水道代やガス代が高額になったりすることも珍しくありません。その結果、家族関係や人間関係がうまくいかなくことにも繋がっていきます。

修学旅行に行きたかったOさん(中学3年生)の場合

 Oさんが養護教諭に伴われて、学校でSC(スクールカウンセラー)の相談に来たのは中3の4月でした。

 養護教諭の話では、昨年からOさんから「手洗い」の時間が長くなってきたことを相談されており、このままでは修学旅行に行けなくなるのではないかと不安が高まっているとのことでした。

「修学旅行には友達と一緒にどうしても行きたいんです。」とOさんは涙ぐみました。

SCが聴き取った結果、「手洗い」は半年前の中2の秋頃から長くなり、その時点で帰宅後に30分、学校では5分程度でしたが、既に入浴時間は2時間、学校の登校や外出の準備には1~2時間を要していました。母親からの病院への受診の勧めは拒否していました。

修学旅行にどうしたら行けるか一緒に考えていくことを約束して、次回のSCとの面接に繋がりました。

Oさんは、今度は相談室に独りでやってきました。

SC「修学旅行に行きたい気持ちはこないだ訊いたけど変わらないね?」Oさん頷く。

「手洗い」の状態を訊き取るが状態の変化はありません。Oさんがそのことを前回よりもしんどそうに語るようになっていることにSCは気づきました。

 

ふと思いついてSCは相談室にあったクマの縫いぐるみをOさんの対面するソファに座らせて、

「この子の名前は「手洗いクン」です。この子に何か言いたいことがあれば言っても良いよ。」と言いました。

Oさんは、とても状況の飲み込みが早い子どもで、少し表情が変わりました。

じっと「手洗いクン」を見つめてから、

クマの縫いぐるみに向かって、大きな声で怒りを込めて、

「てめぇ~ふざけんなよ。いい加減にしろよ。」と叫んだのでした。

SC「そうなんだ。手洗いクンは君の中にはいない。外からやってきたんだね。」

Oさんは黙って頷きました。

SC「手洗いクンは外から来た病気なんだから、病院に行った方が良いかもね。」

Oさんは黙っていました。

 

その後、Oさんは、養護教諭の勧める病院を母親と受診しました。

 

5月末の修学旅行直前に、保健室で養護教諭と話しているOさんを見つけてSCが声をかけると、「病院、行ってますよ。手は洗うけど、石鹸を使わなくて済むようになったんです。」とちょっと嬉しそうにOさんは言いました。「修学旅行は行きます。担任の先生にもわかってもらえたし。困ったら先生の所に行くことになっています。」

 Oさんは修学旅行に無事に参加しました。Oさんは、旅行中は自分をコントロールして友人たちと殆ど同じ行動をしていたと、養護教諭からSCには報告がありました。

 そのことがきっかけになり、手洗い行動は徐々に改善に向かっていきました。

 

 Oさんの場合は、手洗いだけでなく、中2頃から学習成績が思うように上がらないことにも悩んでいて、そのことでの母親との関係が悪化していることなども面接で話題になっていました。そのことが「手洗い」の原因なのかどうか特定はできませんが、心身ともに緊張とストレスが高まる状況を、日常生活から減らしていくことがOさんには必要だったのです。

病気であるという認識=「外在化」が自分を救っていく

 Oさんだけではなく、強迫性障害の診断を受けた子どもたちにたくさん出会いましたが、症状も様々で、生活自体に支障が出ているケースが多く、不登校になっている子どもも多くいました。爪噛みや抜毛、チックなどを伴っていた子どももいました。

 それでも子どもたちは、診断を受けたことを契機に、外からやってくる強迫観念と強迫行動に抗いながら、自分が本当にやりたいことを見つけて葛藤していたように思います。

 家族の生活を阻害しないために夜中に長時間入浴しながら、会えない家族へ交換ノートを書いていた中学生。

 真夏でも長袖や手袋、マスクで防御しながら友達に会うためにフリースクールに通っていた小学生。皆それぞれが病気に立ち向かっていました。

 たとえ外出が難しく医療的な治療を受けなくても、自分が強迫性障害という病気であるという自覚がきっかけで、家族の協力を得て低ストレスの生活改善を続け、サポート校の高校進学につなげた中学生もいました。

 強迫性障害の改善・寛解のためには、時間がかかります。

 そのために、自分の変調として気づきにくい強迫観念と強迫行動の原因が自分の中にあるのではなく、外からやってきたものとして「外在化」することが、長く病気と向き合うための大切な第一歩になるのです。

 どんな状況にあっても、絶望してはいけないと子どもたちは教えてくれています。