リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

不登校を治すより、学校を直そう(その1)~困っていたら助けてもらう「社会モデル」の視点を学校に

学校生活の中で、「すべての子どもを手助けする仕組み」が必要です。

教育先進国のインクルーシブ教育をヒントにしました。

「個」の支援だけでなく、すべての子どもが日頃から支援される「社会モデル」への転換

 現状の小中学校から、発展的に不登校対策を考えていきます。

 もちろん現状の形で、「教員定数増で20人程度の少人数クラス」にシフトするだけでも、教員の目が行き届くようになります。これは現状を変えていくためには大切な施策ですが、さらに「個」を丁寧に見ていく学校教育にしていくことで不登校やいじめ防止の対策にもなる可能性があります。

 ここでは、授業や学習活動の視点からだけでなく、学校生活全般に発展させた支援を考えます。ノーマライゼーションに基づく「社会モデル」を例示しながら、その効果を考えていきます。

例1,「誰でもサポーター」を各クラスに常駐配置する

 「誰でもサポーター」は各クラスに配置され、すべての子どもたちが利用できる、日常的な困りごとをサポートするスタッフです。学校の日常生活で困ったときに相談して頼めば気軽にサポートしてくれます。

 授業中でも休み時間でも、サポーターからはあまり介入することなく行動観察し優しく見守って、困ったときに親身に寄り添ってくれます。管理、監視の強化にならない配慮をしながら、サポーターたちは隣のクラスや廊下の並びのクラスの様子も相互連携して観察します。

 校内のサポーターは定期的に支援会議を行って情報共有や支援課題を確認していきます。

(校内のサポートの一例です)

①風邪などで1週間欠席してしまうと、登校した日には漠然とした不安があるものですが、授業での遅れも不安を大きくします。そんな時に、授業中にちょっと横に付いて遅れてしまった所を教えてもらえたら安心できます。

②また、病み上がりでまだ本調子ではない時にも気にしてくれていて、声をかけやすいだけでも安心できます。体調がすぐれない時にも周りを気にせずに、伝えやすいと思います。

③さらに授業での教員の机間巡視の時間にも、サポーターと教室内で連携をとりながら個々の子どもたちの学習状況をさらに細かくみていくことができます。

④休み時間に教員が職員室に戻って次の授業の準備をしているときでも、サポーターが教室や廊下などにいてくれて、それとなく様子をみたり声をかけたりしてくれるので、独りで過ごしがちな子どもやちょっかいを出されがちな子どもも不安が低減します。

例2,「個人サポーター」を必要な個別の子に対して配置する

 障害や特性その他の状態から配慮が必要と判断された子どもに対して、主に授業中に教室でのサポートをします。決まった個人に付き添って活動をサポートします。サポートする授業や活動場面によってプログラムを組み、校内で数人を受け持つこともあります。

 

 現在、一般級に在籍している発達障害やグレーゾーンの子どもは多くいます。個人の特性を理解した支援員が、子どもに付き添って、授業での指示の確認、集中の喚起、取り組みの優先順位などへの声掛けがあるだけで、安心して授業に参加して理解も深まります。

 また「誰でもサポーター」との併行実施によって、クラス全体が比較的平穏で和やかな雰囲気になり、落ち着いた授業が実現可能です。このことによって、聴覚過敏や学習不安、集団への不安のある子どもの不適応感を低減します。

例3,学生ボランティア等の「遊びパートナー」を、曜日を決めて配置する

 一部地域で学生ボランティアの学校支援は始まっていますが、大学等教育機関と提携した学生ボランティアが、主に昼休みの遊びやレクレーション、学校行事等の子どもの活動に子どもたちに中に入って一緒に参加するような試みも面白いと思います。

 昼休みの遊びや子どもたちの自主活動に「遊びパートナー」が参加することで、集団もまとまりやすく、トラブル防止にも繋がります。学校で集団で過ごすことへの安心感が子どもたちにも高まります。

 「遊びパートナー」は、定期的に子どもたちと活動しながら、気がついたことを担任や支援コーディネーターらに情報交換会で報告してもらいます。子ども目線で、細かい子どもの変化に気づく機会も多くなり、心配な子どもへの早期対応につながります。子どもたちだけで解決できる場面は子どもたちに任せながら、見守りを主体に遊びを支援していきます。

 

 学生の分野を限定せずに理系から文系までこれから社会を支える若い人たちに学校や子どものことを知ってもらうことも重要です。

 「学校のことをよく知っている」と多くの大人が思い込んでいますが、自分の経験した学校生活が学校イメージの土台になってしまうものです。狭い個人の経験に基づいた学校イメージが、教育職、支援職に就くときや、自分の子育てをするときに、一定のバイアスになる傾向は否めません。

 若い時代にもう一度違った小中学校で、子どもたちの中に入って活動を共にする体験は、学生たちに学校や子どもへの視点の拡がりや新たな角度を与え、共に成長できる「循環型」の社会モデルにもなるのではないでしょうか。

 また、小学校では近隣の「学童保育」などとも連携してボランティア学生の派遣をするのも良い方法です。

 

「困ったときに助けてもらえる社会モデル」は、安心できる学校生活から子どもの自己肯定感を育み、不登校の予防的対策になります

  以上、今回は三つの予防的な「不登校対策」の例を考えてみました。

 人材の採用条件、育成、研修などについては各自治体と学校を中心に慎重に行われることになると思いますが、相互扶助や人材育成の「社会モデル」に基づく対策は今までにない試みになります。 

  教員にとっても既成概念の変更が迫られることでしょう。教員と子どもとが安心を相互に感じられる学校への方向転換は、教員にとっても低ストレスで居心地が良く、働きやすい学校になるはずです。

 

 不登校の原因は様々ですが、その子にとって学校が安心できる場所ではないことは、ほぼ共通しています。また不登校になったことで、自己肯定感を低下することもほぼ共通しています。

 この試みがすべてのケースについて救いになる訳ではありませんが、子どもたちをトータルに支援することで不登校の予防的対策になる可能性をもっています。

学校が安心できる居場所になることが、希望がある「社会モデル」になります

 このような日常生活に根付いた支援は、少人数クラスやTT(ティーティーチング)、複数担任制などの改革と併用させることで、より学校生活の安心感を高め、不登校やいじめ・暴力行為などの問題行動の予防策になります。

 またこれらを発展させることで、障害児が原則的に一般級で学ぶノーマライゼーションの考え方に基づいた「インクルーシブ教育」の先進国(イギリス、フィンランドなど)の方向に、遅ればせながら一歩踏み出せるかもしれません。

 

 日常的に困っている時に助けてもらえる体験の積み重ねは、多くの子どもたちに「自分が助けてもらうに値する人間だ」という自己肯定感を育みます。また、教員もそういう子どもの成長の姿を「希望」として体感することができます。

 学校という、それぞれの気持ちが交感する環境での育ちの中で、子どもたち自身が「他人(ひと)に手を差し伸べる」ことを、自然なこととして身につけていくのです。