リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

再考・不登校29.9万人~教員やSC(スクールカウンセラー)の労働環境と雇用の実態を抜きに議論はできません

不登校・今のスタンダード」

全国の小学校各クラス1名弱、中学校各クラス2~3名が不登校

中規模小学校では全校で10人前後、中学校では全校で30人前後

 不登校や問題行動の増加、学校問題の顕在化

 不登校の激増に対して文科省は各自治体の支援体制の向上や学校内の別室登校の体制強化、スクールカウンセラーの増員、フリースクールなどの対応に言及し、先日はNHKでも「不登校30万人」の特集番組が組まれて論議され始めています。

 議論は、当然ながら学校現場や支援体制の改革について焦点化されがちですが、コロナ禍で激増した不登校を生んでいる学校現場の窮状や教員のブラックな労働環境、スクールカウンセラーの雇用問題への議論はさほど多くはありません。

 

 現状では、中規模クラスの小中学校でも、小学校10人平均、中学校30人平均と不登校の児童生徒数は多くなっています。これはあくまで平均で、当然偏りがあります。不登校50人という学校もあることでしょう。

 どうして不登校がこんなにも激増したのでしょうか。はたして小手先の対応で何かが変わるのでしょうか。フリースクールの選択肢が増えれば解決ということではありません。

 不登校の原因は一律でなくケースバイケースで、個々に合わせた細かい対応が必要です。場合によっては外部機関との連携も必要です。

 また、学校における指導や支援は、児童生徒間や対教師の人間関係トラブル、暴力行為、いじめ、虐待、ヤングケアラー、ジェンダー問題、自傷行為、薬物依存、自殺企図、性被害・加害、校外での万引き・窃盗、家庭内暴力など多岐に渡り、多くの子どもの課題が不登校と重複しています。学校が対応しなくてはならない課題を抱えた子どもの数は膨大な人数になっているのです。

 更に現在、学校という組織のあり方、教員の働き方の問題、中学校の部活動の地域移行などが大きな問題になっています。激務によって教員の休職者数も増え、教員を目指す若者も減少し、中学校の募集では定員を割り込む科目もあるそうです。

 それでも、多くの問題を抱えていてもなお、日々学校は休むことなく子どもたちと教員が顔を突き合わせて活動し、共に生活し続けています。

 今、満身創痍という表現が相応しい学校現場の現状から見える議論こそが、実効性のある対策のための第一歩となるはずです。

 学校は、今の私たちのこれからの社会のあり方を考えるための、試金石であり生きた教材でもあるのです。

 

教員の雇用の実態・慢性的な人手不足

 あまり知られていませんが、教員の非正規率は自治体によっては20%に迫っています(10%程度の自治体もあります)。

 40年程前から少子化に合わせるように、各自治体では中学での教科別の正規職雇用の効率化を進め、正規職員を減らして臨任・非常勤の雇用で穴埋めしてきました。その結果、中学校の現場では臨時任用職員でも学級担任を持ち、翌年持ち上がることなく異動することが常態化しています。その結果、教員の入れ替わりが増えて子どもへの指導の継続性が低下しました。

 現在の教員の超過勤務時間は、月平均80時間と言われていますが、子どもの指導を優先して事務仕事を後回しにすればするほど100時間の過労死ラインを超えてそれが常態化している教員もたくさんいるのも事実です。

 また、最近は部活動も職員全員顧問制の学校も当たり前になり、教員のブラックな仕事の実態が世間に知られるようになると同時に、急激な人手不足に陥っています。

 

 学校は、以前から児童生徒指導や部活動に時間がとられ、時間外勤務の長時間労働が当たり前の職場でした。その上、子ども、保護者、教員の対人関係のストレスも高いために休職者の多い職場でした。

 現在は、更に休職者の増加が著しくなり、代替の教員がすぐには見つからず業務の穴が埋められない学校も少なくありません。応急措置で学級担任を他の学級の担任が交替で持ったり、授業の空白を管理職が埋めたりしていることもあります。

 この先、教員の労働環境の改善や、不登校対策やいじめ防止などを考えて学校の改善策を考えるとどうしても教員定数増の論議は避けて通れません。

 少人数クラスの実施や複数体制での授業運営、持ち授業数の軽減、小学校での教科担任専科の導入、支援コーディネーターの授業軽減措置などを真面目に考えたら、現在の二倍以上の教員が必要になるのではないでしょうか。

 現在の教員定数にメスを入れて、少しずつひとりの教員が受け持つ子どもの数を減らしていくことが、ブラックな仕事量の削減に直結する近道なのは明らかなのですが、文科省は事務のアシスタントなどの些末な対策に終始して、本質的議論を避け続けています。

 児童生徒数が多かった時代には、もっと多くの正規職教員を採用していたはずですが、少子化にもかかわらず、それがなぜ出来ないのか理由がわかりません。現在の混迷は、少子化に向かうことを知りながら、低コストの効率主義に舵を切った見通しの甘い教育行政が招いた事態でもあるのです。

 

スクールカウンセラー(SC)の厳しい雇用実態

 今回文科省が付け焼刃的に増員すると言っているスクールカウンセラー(以下SC)は、ここ30年程で存在は認知され、中学校は全校配置になり小学校にもSCの相談日が設けられるようになりましたが、その業務実態はあまり知られておらず、実はその雇用も大変不安定です。

 SCは、中学校で月に4日~2日(計28時間~14時間)程度、小学校で月半日~1日(計4時間~7時間)程度の自治体ごとの非正規雇用=会計年度任用で、3年での雇止めが一般的です。常勤職、正規雇用の公立学校のSCは殆どありません。

 実態は週1~2日7~14時間の日給アルバイト雇用が主流で、15.5時間以上の勤勉手当の対象外でもあります。

 SCで週4~5日28~30時間以上の雇用がある自治体はごく少数で、3~5年雇止め月給制雇用では、時給制のSCに比べて時給金額は半分以下になるのが一般的です。

 

 教育分野の心理職がSCだけで生活していくためには、複数の自治体で会計年度任用のダブルワーク、トリプルワークもしくは医療・産業などの他業種のアルバイトをしなくてはなりません。当然、非正規職ですから同じ自治体のSCとして週30時間以上の雇用がないと社会保険の対象にはなりません。有給の取得も僅かです。住宅ローンも簡単には組めません。

 おまけに会計年度任用は雇止めが3~5年であっても、中身の1年毎に更新が必要で勤務評定が悪いと1年で解雇されます。先日あるSCが、自分の雇用の実態を派遣労働の友人に話したところ、「それは酷すぎる」と同情されたそうです。

 この過酷な労働条件は、2019年に施行された「働き方改革関連法」が元凶です。6年非正規雇用をしたら正規職にするという規定を逆手にとって、5年以内雇止め会計年度任用公務員を作った訳です。

 それ以前は「公務員の嘱託員」という形での雇用で1年更新は変わりませんが、決められた雇止め期間がなく、民間の契約社員に近い身分でした。それが、会計年度任用になった現在あるのは、取りあえず「今年は公務員」(但し非正規)という身分だけです。

 SCは常に、来年は職を失うかもしれないという不安と付き合いながら、子どもや親と面接をしているのです。

未だによく理解されていないSCの仕事

 現在のSCの増員は、雇用形態を変えずに同じ学校に複数のSCが重点配置される形が一般的です。タイプが違うSCが二人いた方が良いという声もありますが、SC同士は原則的に勤務曜日が重ならず、顔を合わせることが殆どないままに1年が過ぎていきます。同業者が同じ支援体制の中で同僚として業務していながら、大切な情報共有すら文書での情報交換だけにならざるを得ない実態があります。

 学校全体の支援体制の強化を考えると、同じSCが勤務日数を増やした方が、学校全体が見えやすくなります。また、増えている不登校支援の性質上からも、子どもや親の相談業務を同じSCが2~3年は継続的に見られるものにしていく必要があります。

 SCの面接は、支援対象の親や子どもの成長変化を支える意味があり、子どもの状態をみたてて学校の支援につなげることがSCの重要な専門的業務のひとつです。

 子どもや親が独りで抱えずに、誰かに相談してみようという気持ちを素直に受け取り、自分の成長のために相談を続ける対象者自身の意味を共有できるのも心理職の技能です。対象者の味方に徹する覚悟を持つのもSCには大切な仕事です。

 しかし、SCは「何もせずにただ見守るだけ」、「話を聴くだけ」というメディアの浅薄な論調や、学校現場でも「ただのガス抜き」という無理解な言葉は後を絶ちません。

 

 SCが子どもや親との関係性を構築するのには時間がかかります。しかし、すべてのケースにおいて、SC自身が来年度はこの学校にいないかもしれないという中での面接でのケースワークを行わざるを得ないのが実態です。

 繋がってもすぐに切られてしまうという制度は、公的機関の支援への信頼にも関わることでもあり、相談者のその後の相談モチベテーションを著しく低下させます。

 これは支援の対象者である子どもや親にとっても明らかなサービスの低下です。

 

 また、校内の教員もSCと十分にコミュニケーションを取りながら情報共有して子どもや親に関わりたいのは当然ですが、多忙な教員がSCの限られた勤務時間内でそれを行うことには困難がつきまといます。現場の支援担当の教員の声を訊いても「十分に話す時間が取れない」「せっかく繋がったケースなのにSCがすぐに代わってしまうのは困る」などと言われます。

 これからの安定した支援体制を考えるときに、SCは複数配置で増員するよりも、学校1名の配置で勤務日数を増やした常勤化、正規職化の道は避けて通れません。

 

 

教員やSCが子どもとしっかりと向き合える学校の環境を

 コロナ禍での不登校児童生徒の激増は、起こるべくして起こっているとも言えます。

 それまでも教員たちがギリギリの勤務を続けて子どもたちとのつながりを何とか保っていた学校に、コロナ禍という激震が走ったのです。大きく揺れた学校という器からは、様々な発達特性や家庭の事情などを背負いながらやっとの思いでこれまで通学してきた子どもたちが振り落とされています。

 

 これまでの日本の学校教育が進めてきたコスパ優先の集団教育は、コロナ禍で急激に求心力を失いました。手薄な人数での教員の負担が過重になり、子どもたちを集団で括れなくなった途端に、個々への指導の手厚さを失う脆弱性を露呈しました。そして不登校になる子どもたちが雪崩を打ったように増え続けているのです。

 学校の労働や雇用の問題と、子どもの不登校の問題は、「卵が先か鶏が先か」というほどに密接に結びついています。このことは私たち大人に、子どもたちの学校教育が日頃からどうあるべきか、私たち自身の生活が何を大切にすべきなのかを問い直しています。

 今こそ、「個を尊重する子どもの教育」と、「個が尊重される大人の社会」への大転換が求められているのではないかと思うのです。