自治体一斉の取り組みは、教員の意識の差を埋められるのか。
校内フリースクールで再び「不登校」にならないためのチェックポイント。
不登校対策で急激に流行り出した校内フリースクール(別室登校)とその歴史
不登校の児童生徒のための「別室登校」は今までの数十年、工夫してやってきた学校と、まったくやらない学校に分かれていました
前者では、教室に入れない子どもに対して、今までも相談室登校、保健室登校などが学校裁量で行われてきています。担任や養護教諭、管理職などが交替で様子を見ていたり、中学では空き時間の教員が時間を決めて交替で学習支援をしたり、工夫をしてきた学校もあります。自治体によっては予算を付けて支援員や介助員を雇用して教員の負担を減らし、別室に大人が常駐してみてきているところもあります。
歴史的に見れば、不登校が増え始めた1980年代頃から別室登校はありました。それ以前の学校では、職員室で子どもをみていたことも聞いたことがあります。
しかしその半面、後者のような学校も多くあります。大規模校や児童生徒指導困難校を中心に、別室登校を一切認めない学校があります。不登校の子どもは学校での存在感がないために教員もあまり手をかけることなく、関心を払わずに半ば放置されてきたのです。
別室登校を認めてきた学校でも、不登校の子どもはおとなしいタイプというイメージから、別室登校で元気になるとほぼ教室に入るように背中を押されたものでした。別室でちょっとふざけて騒いでいた子どもが担任から、「そんな不真面目ならもう学校に来るな」と言われたこともありました。その子どもに嫌がらせをする不真面目な子どもが教室にたくさんいるのですが。
このような学校の状況は今日もあまり変わりません。
今でも学校差が大きい不登校への対応や教員の意識
実際に、現在では別室登校だけではなく、部活のみの部分登校や、授業を選ぶピンポイント登校など様々な登校パターンを受け入れて、家にひきこもるよりずっと良いとか、学校に来られるのはとてもよく頑張っているなど、子どもの目線や気持ちを想像して支えてくれている学校もあります。そういう学校は別室登校の利用法も子どもに合わせて柔軟です。
一方で、別室登校や部分登校を認めず、ひとり許すと、皆やりたがる、際限がなくなる、学校の秩序が崩壊する如く、あくまでも教室で一日過ごすことだけを伝家の宝刀の出席カウントにして振り回している学校も存在します。
同じ公立学校で、こんなに違っていいのだろうかと思うのが現実です。
教員の意識を比べても随分違っています。例えば、ある学校では、週に一度放課後に登校すると担任が勉強をみてくれたり、遊んだりしてくれて家庭まで一緒に歩いて連れて帰ってくれる担任もいて、親は先生には感謝してもしきれないと涙ぐむのですが、ある学校では、夏休みまで教科書を渡すことすら忘れられていたり、教室に戻る意志がなければ別室登校はさせないと言われて子どもがひきこもってしまったりして、親も深く傷つき、恨み骨髄の学校もあります。
校内フリースクール(別室登校)の取り組みへの懸念
文科省では、教室に入れない子どもに対しては保健室などでの受け入れをかなり以前から勧めていますが、別室登校での受け入れは地域差があり、同じ地域内でも学校の規模や設備、児童生徒指導の観点から学校差が大きくあるまま2024年を迎えています。
2022年度の不登校が29.9万人になり、その後も激増していることを受けて、文科省も校内支援にあらためて力を入れる方針を出したことで、多くの自治体では自治体を挙げて「校内フリースクール」という「別室登校」に取り組み始めています。
やっていること自体は新しくもなんともないのですが、当該自治体の全校が別室登校に取り組むという踏み込みは、不登校の支援にとっては一歩ではあると思います。しかし、これまでの学校差、地域差を考えると教員の中に根付いてきた意識の差は大きな懸念として拭えません。
やっている感だけでも困りものですが、中途半端な取り組みになることが最も子どもの傷口をかえって拡げる結果をもたらします。制度の実施が学校現場の意識改革を伴ったものになることが必須です。
不登校からの回復の場所になるはずが、常駐している支援員(介助員)の質や学校全体の不登校理解の水準によっては、「校内フリースクール不登校」という重大な二次障害になりかねないからです。
別室登校の意味は、子ども本人が決めることが大切です
別室登校では、登校するのは子どもの自由意志です。
内容も、学校が決めた通りの利用の仕方を押しつけるのでは、学校と同じになってしまいます。子ども自身が考えなくては、子どもの自己理解が進まず、その上で自己決定していく成長が図れません。
子ども自身が自分に合ったペースを身につけて、心身の健康度を回復させていくことが大切で、遅れている学習をさせることをメインに据えるべきではありません。学校に登校して過ごす時間を少しでも持てることが本人の自信に繋がるように支える事に意味があります。
また、登校ペースを上げることを目標とせず、不調の時には無理せずにしっかりと休めるようになることが重要です。ですから週1日、1時間滞在から始めることはとても自然なことです。生真面目な子どもほど過剰適応するので要注意です。けして最初から頑張らないことです。徐々に慣れてグズグズとしながら、ペースを上げない方が長続きするものです。
このような不登校の子どもの立ち直りのための別室登校の意味を教員側がどこまで共通理解できるのかが、「校内フリースクール」構想の分かれ目になるでしょう。まず子どもを主体に置いた角度から、教員自身が思考してみることです。
別室登校の目的は不登校全体の数を減らすことではなく、学校がそれぞれの子どもにとって安心できる居場所になることです。はたして、笑顔で「よく来たね」と迎え、「またね。気をつけて。」と送り出してくれるでしょうか。怖い顔で「大きな声で挨拶をしなさい」と相変わらずご指導されるのでしょうか。
「校内フリースクールの不登校」にならないために、保護者が事前に子どもの状態に合った支援ができるのかを確かめましょう
そのための12のチェックポイントです。
①子ども本人が別室登校をする意志があるかどうか。
②子どもの状態が、今別室登校をする時なのかどうか。
③本人にそこの別室登校がマッチしているかどうか。
④登校日数、登下校の時間、滞在時間を子どもの希望で決められるかどうか。
⑤時間割など学習や活動の内容が細かく決められてしまっているのか。子どものペースは尊重されるのかどうか。
⑥適応が上がっても直ぐに教室にプッシュされないかどうか。
⑦どんな人が常駐して見てくれるのか。支援の専門家なのか。教員OBなのか。どんな研修を受けてきている人なのか。どんな考え方の人なのか。
⑧別室の設置環境は良いか。陽当たりはどうか。広さが確保されているか。パーソナルスペースはあるのかどうか。
⑨活動では、会話や遊びなどができ自由に寛げるのかどうか。どんな約束事があるのか。
⑩スクールカウンセラーの勤務日にはSCが子どもの様子を観察したり、声掛けをしてくれたりするのかどうか。
⑪子どもが自分の意志で別室登校をすること自体に意味を見出してくれる学校なのかどうか。
⑫登校すれば無条件に出席扱いになるかどうか。(これはモチベーションを左右します)
※率直に、担任の先生やスクールカウンセラーに質問してみましょう。