短期間での子どもの「再登校を煽る言動」は、親子を追いつめます。
焦って今の学校に復帰するよりも、本当の「再登校」とは「いずれ元気になったら自分から進んで再び教育を受けること」と考えて、子どもの成長を見守りましょう。
「不登校」には、個々に様々な背景があります
「不登校」には、子どもの数だけ理由とその背景があります。要因は、学校状況・家庭事情・地域などの子どもの生活空間と、生まれ持った気質や特性、健康度などが複雑に絡み合っています。
「不登校」は、身体に例えれば「咳」が出ているような症状に似ています。「咳」が出る疾患はとても多くあって原因は同一ではあり得ません。十把一絡げに論じること、一般論で片付けることなど、けしてできない問題です。
ただ、共通点がひとつあるとしたら、「不登校」への偏見や悪評、親を責める風潮などが根強いために、そのことで傷つき、自己評価を低下させやすいことでしょう。
親も子も精神的に追い詰められ、疲弊します。親が再登校を強制すれば、親子のバトルや行き違いで家が安心できる居場所でなくなり、ますます自己否定、自傷、希死念慮、自殺企図のリスクが高まります。
急激に増えた、解決を謳う「不登校の早期再登校ビジネス」に要注意
2022年度の全国の小中学生の不登校が約30万人になり大きなニュースになりました。不登校の人数の増加と正比例して、急激に「不登校の早期再登校(現状の学校への早期復帰)ビジネス」が増えています。
世の中では困っている人がいるとそこにニーズが生まれ、ビジネスが発生するのは常ですが、他人の不安を煽って、弱みにつけ込むビジネスは卑劣で胡散臭いものです。
多くは「不登校の9割は親が解決できる」「3週間で再登校が8割」「5つのルールを親が守らせる」など、企業系の出版社からの書籍のタイトルで謳って買わせ、その中でさらに研究機関と称する場所での高額なプログラムに誘う方法をとっています。
フリースクールやサポート校・通信制高校とは根本的にスタンスが異なる
一昔前から急増したフリースクールや高校のサポート校・通信制高校も増加する不登校や高校中途退学者をターゲットにしたビジネスでした。しかし困った人の受け皿にこそなれ、他人の弱みにつけ込むビジネスではないのが殆どです。実際には、多くの子どもたちがそれに支えられている事実もあります。
様々なサポート校や通信制高校が増えたことは、不登校の小中学生や親たちにとって経済的負担はとても大きく、余裕のない家庭では利用できない格差がありますが、小中学校で不登校でも、中学卒業まで健康に生活できれば高校は多くの選択肢がある、という「希望」になってきました。その実績から、公立高校の中にも単位制高校や、不登校生徒を対象にした高校も生まれてきています。
しかし、最近の「不登校の短期再登校ビジネス」は、それらとはまったくスタンスが異なっています。
不安を煽り、囲い込む手法は「霊感商法」と同じ
「不登校の早期解決」を謳い、一見「希望」のように見えますが、「不登校は早期に解決できるのに今まで何をしてきたのか」「不登校を認めてきた親が悪い」「見守りは何も意味がない」と不安を煽って、「早期解決の特効薬」の本の購読やプログラムへ誘導するビジネスなのです。
この手法は、サプリメントや民間療法の売り込み、投資や宗教への勧誘などに多く用いられます。
不登校になった複雑な背景を持つ子どもへの理解よりも、「不登校」を単純化、同質化して語り、早期に現在の学校に再登校させる目標ばかりが強調されています。藁にもすがりたい親の不安を刺激し、呼び起しながら、誘いを呼び掛けます。
子どもが突然不登校になって、揺れていた時期からやっと落ち着きを取り戻して、子どもと向き合っていこうとしている親たちが、この宣伝文句を聞いたらどう思うでしょうか。親たちにはこう聞えるはずです、「子どもの思いを訊きすぎて不登校が長引いている、甘えさせているのは親として間違いだ、こっちに来れば、親のやる気次第であっという間に解決しますよ」と。
不登校の子どもをもつ親たちの多くは、自らの養育に自責の念をもつことがあり、他人に相談できずに孤立しがちで、苦悩しています。この宣伝文句は、この親の弱みを抉り(えぐり)、罪悪感と焦燥を助長していきます。この手法には、「人助け」を装ったエセ宗教の高額な「壺」を売りつける「霊感商法」のような悪辣さが底に見えるのです。
「不登校の早期再登校ビジネス」を後押しするメディアの論調
このビジネスの宣伝のもうひとつの特徴は、現在の学校と親との間で相談しながら子どもの成長を見守ってきている現在進行形の学校の支援や、スクールカウンセラーの地道に継続しているカウンセリングなどを、頭から否定するような宣伝の方法をとっています。
ともかく親が努力して子どもの生活管理をし、自己肯定感を上げ、学校へ戻る道筋をつけなさいという論調です。そのために、フリースクールや適応指導教室ではなく、この私たちのプログラムで学校に戻しましょう、勉強が身につかないままで生きていけますか。学習は学校でしか身につきませんよと、高らかに、不安を煽りながら呼びかけるのです。
もう一方で、似たようなスタンスをもつメディアや、保守系の政治家などが同様な主張を展開しています。おそらくこれらは同じ流れの動向なのだと思われます。
そこには「学校は行くべき所、親がしっかり行かせるべき」という、旧態依然とした「現在の学校制度」の全面的な肯定があります。現在の学校教育の問題点には一切触れません。ともかく、登校しないと勉強ができなくなって社会自立できませんと言い切ります。
残念ながら小中学校の教員の中にも、同様な主張は根強くあります。不登校の支援が同じ学校内でも教員によって対応に差があるのはそのせいです。スクールカウンセラーが教員に冷遇されている学校もまだ見受けられます。
この主張には、子どもの個人としての思いや成長過程、背負っている家庭環境などを無視した基本的人権意識の薄い「親が子どもを学校に行かせるのはあたり前」という、旧憲法のような「家族」を前提とした思想の香りが強く漂ってきます。
昨年(2023年)の10月に滋賀県の東近江市の小倉市長が「不登校の大半は親の責任」「フリースクールを認めるのは国家(義務教育)の根幹を崩しかねない」と発言して、大きな問題になりましたが、その発言の内容と、現在の「不登校の早期再登校ビジネス」のスタンスがほぼ重なっているのは、誰が見ても明らかです。
要注意!!「不登校の早期再登校支援」の主張の特徴
あらためて、その主張の特徴を整理してみると、以下のようになります。
〇学校に行かないとまったく学習が身につかないと脅す。
教室に入ることが目的化しています。
〇不登校の解決は早期・短期の再登校ができると言い切る。個々の事情は無関係なのでしょう。
不登校になることで子どもが守っているものをはぎ取ることになります。
〇「○○不登校支援の会」に入会してプログラムに参加すれば、9割が3週間で再登校し早期に不登校は解決するといった謳い文句でぶち上げる。
「解決」というニンジンをぶら下げます。
〇現行の学校制度や環境に対する疑問や改善の主張はまったくなく、学校を子どもが当然行くべき所として全面肯定して早期復帰を促す。学校の「いじめ」などは少ないと言い切る。
不登校を続けてはいけない、学校へ行くのはあたり前という単純な空気を作ります。
〇子どもの自主性・主体性を「甘え」と決めつけて認めず、子どもの発達特性や家庭環境を無視し、親がしっかり管理して、自信を持たせて学校に行くように教え導けと「厳しさ」だけを求める。
「親」がしっかりしてないから不登校になったのではないかという罪悪感を思い切り揺すぶります。
確かに「不登校早期再登校ビジネス」の本をプログラム読み、プログラムにつながった親や子どもたちが、健康度を上げて再登校することはあると思いますが、そもそも「再登校のため」だけに動ける親や子どもには、エネルギーと経済力がありますから再登校率は高くなるでしょう。不登校30万人全体を救おうなんて、最初から考えてはいないのです。
「助ける」人間の顔をして、「殆どの不登校は再登校できるのにしていない。このやり方で簡単に解決する」と「不登校」に対して「十把一絡げ」に不安を煽って、自分のビジネスの利益を上げる意図があるのは明らかです。参加の料金は平均的に10万円ほどです。
当面は再登校を目指さないことを選択し、各家庭で休養しながらQOLを高める、買い物などの外出する、習い事や塾に通う、フリースクールや適応指導教室を利用するなどして、回復期に入っていこうとする過程の子どもや親たちは、自分たちの地道な取り組みを頭から否定されるような気持ちになる筈です。
せっかく、時間をかけて再登校の呪縛や焦りから少しずつ解放され、エネルギーを取り戻しつつある人たちの心を踏みつけにしているに等しいのです。
こんな宣伝文句を簡単に信じる人は多くはないと思いますが、それを目にした人たち、特に当事者や、支援の現場で働いている人間には、不登校への「偏見」が垂れ流されているとしか感じられないでしょう。また、これに影響を受けて力を得てしまう、思考停止した無理解な人たちが根強く残っていきます。
不登校の子どもへの支援の大切なポイントを確認します
最後に、以前のブログで紹介した、精神科医の滝川一廣さんの著書「子どもたちのための精神医学」の中にある「不登校からの立ち直りのためのステップ」を再度紹介します。
様々な不登校の子どもをみていく上での立ち位置の「拠り所」になるはずです。
※再掲・参考資料<不登校からの立ち直りのステップ>
(滝川一廣「子どものための精神医学」より)
1 家の中で子どもの気持ちが安定してきている。
2 家族の気持ちも安定してきている。
3 学校も子どもに関心をもちつつ見守ってくれている。
4 子どもの生活にリズムが出てくる。
5 子どもの生活リズムと家族の生活リズムの波長があってくる。
6 子どもが家の中で能動感をもってやれること、楽しめることを見つけている。
7 遊びや趣味を楽しむだけでなく、ちょっとした家の用事や手伝いもするようになる。
8 子どもの興味や関心が、家の外の世界にも伸びはじめる。
9 これからどうしたいのか、学校をどうするのか、将来の方向といったテーマに ついても、子どもが自分なりに考えてみたり、話し合ったりできるようになってくる。
10 子どもや家族が先の見通しが開けつつある実感をもちはじめる。
11 先の見通しに向けての具体的な現実模索がはじまる。
子どもたちには、ゆっくりと、この11のスモールステップを踏んで成長していってもらいたいと思います。
子どもたち、親たちが皆、何にも代えがたい「命」と「健康」を第一に考え、毎日が楽しいものになっていくことを願っています。「学習」は元気になってからでも遅くはありません。