リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)(その1)その症状と危険性

「急性ストレス障害」の症状が「トラウマ体験」後、1か月以上続き、重症化、長期化、複雑化してきた場合に「PTSD= Post Traumatic Stress Disorder心的外傷後ストレス障害)」と診断されることがあります。

PTSD心的外傷後ストレス障害)」とは

 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力など、強い恐怖を伴う精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じるストレス症状群のことをさします。

 出来事の例としては、災害、暴力、性被害、虐待、事故、戦闘、パンデミックなどがあります。自分自身がこれらの出来事を実際に体験すること、他人が巻き込まれるのを目撃すること、家族や親しい人が巻き込まれたのを知ることもトラウマ体験となります。また災害や事故などの救援者の体験もトラウマになることがあります。

PTSD心的外傷後ストレス障害)」の主な症状と診断(「急性ストレス障害」の症状とほぼ同様です。)

(「DSM-5:アメリカ精神医学会診断・統計マニュアル第5版」より)

侵入症状(追体験:フラッシュバック)

トラウマ体験の出来事の生々しい記憶が、映像や音を伴って度々蘇る、悪夢として反復する。また、その時のままの感情を思い出すために、気持ちが動揺して動悸や発汗を伴います。

 

回避症状

トラウマ体験を思い出したり考えたりすることを極力避け、関連の人物、事物、状況や会話を極端に回避します。

 

否定的な認知と気分(陰性の感情)

自分に対する否定的な認知、興味や関心の喪失、周囲との孤立感を感じ、陽性の感情(幸福、愛情など)を喪失します。

 

過覚醒と反応性の著しい変化

不眠などの睡眠障害、過剰な警戒心、驚愕反応、集中困難によるイライラ感、自己破壊的な行動などがみられます。

 

上記の症状が1ヵ月以上持続し、それにより顕著な苦痛感や、社会生活や日常生活の機能に支障をきたしている場合、医学的にPTSD心的外傷後ストレス障害)と診断されます。

 

症状は「急性ストレス障害」ほぼ同様ですが、トラウマ体験から4週間以内の場合に症状が消失した場合は、PTSDと区別されています。

 

PTSDを発症した全員が慢性的なPTSDの症状が続くのではなく、発症から数ヶ月間の時間で適正な治療を受けると6~7割の人が回復していきます。その一方で、適正な治療を受けられなかった場合や、重症度が高い「複雑性PTSD」では自殺のリスクが高まると言われています。

「単純性PTSD」と「複雑性PTSD

 PTSDには「単純性PTSD」と「複雑性PTSD」の2種類があり、それぞれで対処が異なります。

 

「単純性PTSD」とは

暴力や性被害、親しい人の死など、最近受けた一度きりのトラウマ体験に由来するPTSDです。薬物療法心理療法の効果が現れやすいと言われています。

 

複雑性PTSD」とは

幼少期からの長期的な虐待(暴言・暴力・ネグレクト・性被害・教育虐待など)、カルト集団のマインドコントロール、戦争、災害などで長期間繰り返し生死に関わるトラウマ体験を重ねた場合のPTSDです。特に、子どもや若者には心を深く蝕む、重度で深刻な症状が多くみられます。

まだ治療の研究が進んでおらず、重症度が高いPTSDと考えられます。

PTSDに多い併存症

 PTSDに罹患している80%の人に、精神疾患が1つ以上併存していると言われています。

 「気分障害うつ病)」・「双極性障害」・「不安障害」・「物質使用障害」(アルコール依存など)・「素行症」(反社会的行動など)などが主な併存症です。また、PTSD認知症は併存が多くあることが知られています。

日常の過酷なトラウマ体験からもPTSDの症状を発症することがあります

 コロナ禍以降、大人の働き方が変化し、社会の経済格差が大きくなることで、貧困を背負った家庭や家族との関係の問題(虐待やヤングケアラーなど)や、身近な人からの性被害の問題が学校臨床のケースとして次々と顕在化してきています。

 また、リストカットなどの自傷行為希死念慮オーバードーズ、自殺未遂、自殺企図の問題のケースは低年齢化し、小学生でも珍しくない状態です。

 

 虐待(暴力、暴言、ネグレクトなど)、性被害などのトラウマ体験は、長期に渡って過酷な経験が続くことも多く、他人に言いづらく自分だけで抱えてしまいがちです、そのため、早期に必要なケアを受けられないまま、無理矢理に自分の内側に押し込んで、蓋を閉めて生きていることも往々にしてあります。

 また、家族や親しい人たちの突然の死去などがその上に、折り重なるように起こるケースもあり、子どもたち自身がケアを受けられる環境がなかなか見いだせない状況になってきています。

 さらに、生きていれば誰の上にも起こりうる、大きな事故や災害での生命の危機の体験や、他人の死亡状況の目撃や、友人の自殺なども起こりえます。

 

 突然の危機的な出来事が起こった時に大きな支えになるべき子どもたちの生活環境の土台がいま大きく揺らいでいます。

 日常的なケアも儘ならず、生活から健康度やエネルギーが失われつつあることが、現在の日本の子どもや若者にとって「PTSD」の発症の最大の危機とも言えるのです。

→ 次回 PTSD心的外傷後ストレス障害)~(その2)「PTSD」は戦争から始まった」に続きます。