リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)(その4最終章)その治療と予防

現在は「PTSDの多くの治療法が開発されています。患者は、自分に合った治療法を専門家と相談しながら見つけていきます。

また、「PTSD」の予防の可能性についても考察します。

PTSDの治療

 PTSDは適切な治療が必要な病気です。治療は、患者の日常生活の環境調整を行った上で、基本的に「心理療法」をはじめとする様々な精神療法の治療アプローチと、二次的に「薬物療法」で治療されます。治療法や薬への反応には個人差が大きく、人によって PTSD の症状は異なるため、治療法も異なります。

 最も効果的な治療法を見つけるには、さまざまな治療法の組み合わせを試す必要があります。どのような治療法を選択するにしてもPTSDの治療経験があり、患者の回復過程を支援できる専門家に相談することが重要です。

治療前の前提となる環境調整

 トラウマとなっているものに、できる限り触れなくて済むように環境を変えていきます。虐待やストーカー被害がある場合は、その状況から離れる、事故や戦争などの情報や関連したものから遠ざかるなど、トラウマの原因になっていることから根本的に避難することを目指します。

 その際には、その人の生育歴や育った環境や性格、特性、文化などを理解して、個人の中にあるトラウマ体験を理解していくことが必要です。

 どの精神疾患もそうですが、安全でリラックスできる健康度のある生活環境がその基盤になることは言うまでもありません。

多くの治療法があります

支援・援助の心理療法の基本姿勢

 心的外傷後ストレス障害PTSD)を引き起こすトラウマ体験は、たいへんな苦痛を伴う過酷なものです。その苦しみやつらさへの共感と受容があることはとても重要です。ただし、本当の苦痛は本人しかわかりません。治療者は安易にわかったふりをせず、その苦しみを抱えている患者をそのまま受け入れて理解に努める姿勢が大切です。

 また、患者はPTSD症状を自らの弱さや過失によるものと思い込んでいることが多いため、PTSDは健康な誰にでも起こりうる病気で、あなたの外からやってきてあなたを傷つけた「刃物」のようなものであることを丁寧に説明し、自責の念を軽減していきます。原因は加害者や悪意ある社会の他者にあって、あなたはまったく責任がない、無辜(むこ)な被害者であることを伝えていきます。また、トラウマ体験という強いストレッサーによって症状が出ることはむしろあなたが健康な人間であるがゆえのことであることを重ねて伝えていきます。

 

 症状を受け入れることと、自責の念の軽減はその後の治療の効果を左右する重要なポイントになります。治療に向けて、必要な司法支援や生活支援、被害者支援、医療などの支援につながろうとする患者本人の気持ちを支えることが重要です。

主な心理療法

 持続エクスポージャー療法

持続エクスポージャー法は、トラウマに焦点を当てた認知行動療法であり、セラピストとの会話を通じて心的外傷に慣れていく心理療法で、国際的に推奨されています。

認知行動療法

認知行動療法(CBT)は、認知再構成を中心に構成される治療プログラムです。トラウマ体験の回復を妨げているスタックポイント(自責感・恐怖感・絶望感など)を発見し、和らげたり修正したりします。

子どもの治療にも、用いられるトラウマ・フォーカスト認知行動療法(TF-CBT)というプログラムもあります。

ナラティブセラピー

トラウマ記憶が感覚運動的・身体的記憶にとどまってフラッシュバック(追体験)がある場合に、その記憶を叙述的記憶(言葉で表現する記憶)に変えていくプログラムです。

EMDR(眼球運動による脱感作)

睡眠における眼球が動くレム睡眠の際に、記憶が消去されることに着目した技法で、眼球運動時にトラウマ体験を想起させることで恐怖感を緩和します。

心理療法以外の治療

 薬物療法

抗うつ剤を中心に用いられますが、PTSDそのものの治療効果は限定的です。現在、世界では医療大麻・MDMAを使用した治療もされています。

その他

作業療法、TMS治療(磁気刺激治療)、ストレス予防トレーニング、ヨガセラピー、鍼治療、グループセラピー、アニマルセラピー、瞑想など様々なPTSDの治療アプローチが

あります。

PTSD患者が身近にいる方へ

(援助の基盤)

・まず、何をするかの前に、その方を「サポートする気持ち」を強く持ってください。

・次に、「PTSD」という病気を学習して正しく理解してください。

 

(方法や注意点)

・その人を、症状ごと受け入れて、症状を悪化させない接し方を心がけましょう。

・外傷体験の軽視、弱さを責める、安易な同情、無責任な励ましは禁止です。

・職場などでは、仕事の効率の低下、遅刻や病欠を容認し、否定しないようにしましょう。

・その方の感情の波や起伏を受け入れましょう。

・トラウマ体験を本人が話そうとしているときは、迷わず時間を取って極力質問せず話を遮らずに専念してください。(ただし自分がつらくなってしまったら、我慢せずに正直にその方に伝えて、聴くことは専門家にお願いしてください。二次的外傷を避けるため。)

PTSDの予防はどこまでできるのか

 PTSDは誰にでも起こりうる病気ですが、同じ出来事を体験してもPTSDになる人とならない人がいるため、メンタルが弱いという言葉で切り捨てられてしまう事が多くあります。ストレスの感じ方、耐性には個人差があります。適切な治療によって症状の改善が十分望めます。PTSDを疑った場合は早めに医療を受診しましょう。

 

 心的外傷を完全に予防することは現実的には不可能ですが、突然のトラウマ体験に遭遇し、急性ストレス障害の症状が出た時からPTSDの予防的な行動をとれるとしたら、少しでも軽症で回復できるかもしれません。また、トラウマ体験そのものを減らすような社会への働きかけや活動を通して、ストレッサーそのものを減らすことができるかもしれません。

日頃からできる自分へのケア

・日頃のルーティンの中で、自分の身体や心の状態をモニタリングして、その変化に敏感に気づけるような習慣をつけていきます。

・急性ストレス症状や、抑うつ状態の自分に向き合って、その状態を言語化する、数値化する、絵画や記号で表すなど、客観化できるコーピング(対処法)をひとつでも多く身につけましょう。コーピングの多い人はPTSDになりにくいという統計もあります。

【不安階層表の一例】

 

・あふれるネットやメディア情報への触れ方として、実感を伴わない情報量について自分に入る量や時間を制限して一定の距離を保つようにしましょう。自分への情報の影響を、セルフモニタリング(自分を客観的に査定)できる範囲に留めていきましょう。

さらに発展的な試みとしての予防策

 現実に起こりうる災害や戦争、事故などの実相を、外傷を追体験しないセイフティーな環境で機会あるごとに、科学的な事実や歴史に基づいた事前学習をしておくことは、実際にその状況に遭遇した時に多少なりともの「経験」があることで冷静に対処することにつながります。

    【東日本大震災

 

 被災地を訪れる、博物館や資料館に行く、関連の歴史・記録を読む、経験者(語り部)の話を訊くなどして、自分の五感で実相に触れる生々しい経験をすることはとても有意義なことです。更に、体感時の自分の気持ちの動きを記録に残していけたら完璧です。経験とその体感の記録は、いつの日か危機から自分や大切な人を守ることにつながることでしょう。

【広島原爆資料館被爆した三輪車】

 

 当然ですが、不可抗力の地震や回避しにくい事故、パンデミックなどを除いて、PTSDの起因になるような出来事を自分が生きる社会で起こさないこと、その発現リスクを下げることが最大の予防につながります。

 その中でも大量のPTSD患者を生む地球温暖化による自然災害の被害を減らす、人間同士が殺しあう戦争や悲惨なテロを未然に防ぐなどの、被害を拡大させない日頃からの努力積み重ねは自分にとっても有効なPTSDの予防になります。

 

 ひとりでも多くの人々が、気候変動を科学的エビデンスから学び、今必要な対策を知る。歴史の中の戦争の実相に触れ、現代の核兵器をはじめとする現代兵器の破壊力や精度の高さゆえの恐怖を学ぶ。そしてその社会背景を考察する。

 「行動」「感情」「思考」が一体になって生み出す営みが、私たちの中にある「想像力」というコーピング(対処力)を高めて、PTSDのリスクマネジメントをすることになります。「歴史と現実に向き合う学び」と「柔軟な想像力」が、私たちの平穏で自由な日常を守るのです。

   【第五福竜丸