今や小学生まで広がっている自傷、希死念慮、オバードーズ、自殺企図。
現在の親や学校の対応や支援が、さらに子どもたちを追い詰めているとしたら。
本書は子どもだけを対象にしているものではありませんが、当事者の心の中を理解するのに役立つ一冊です。
「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか 松本俊彦 編 日本評論社(2019)
依存症、自傷・自殺等、多様な当事者の心理をどう理解し関わるか。大好評を博した『こころの科学』特別企画(2018年2月号 特別企画を増補、書籍化されました。
<本書の紹介より>
もしある人が「助けて」と言えないならば、そこにはそうなるだけの理由がある――。
病気であることが明らかなのに、治療を受けることを拒絶する。
学校でいじめにあっているにもかかわらわず、親や教師にそのことを打ち明けない。
ホームレス状態から抜け出したいというニーズがあるはずなのに、支援機関につながろうしない。
周囲が援助の手を差し伸べているのに、自傷行為や薬物乱用を繰り返す。
こうした人たちは、「誰かに助けてほしい」という気持ちをもっていないのでしょうか。
そもそも、他者に助けを求めるという行為は、誰にでも簡単にできることではありません。「援助希求能力が乏しい」とされるその人は、助けを求めることで偏見や恥辱的な扱いに曝され、コミュニティから排除されることを恐れているのかもしれません。あるいは、成育歴上の逆境的体験のために、「世界は危険と悪意に満ちている」「自分には助けてもらうほどの価値はない」「楽になったり幸せになったりしてはいけない」と思い込んでいるのかもしれません。
だとすれば彼らが援助を求めることはなく、手を差し伸べても拒絶されるのは当然です。
自傷行為や薬物乱用は、死にたいくらいつらい現在を生きのびるための、やむを得ない選択なのかもしれません。それは、彼らがカッターナイフや薬物といった「物」にしか依存できないことを示しています。
「物」への依存から脱却し、安心して「人」に依存できるようになること――。本書ではさまざまな臨床現場の実践から、その道筋を探ります。
<目 次>の紹介
○ はじめに
Ⅰ 助けを求められない心理
1「医者にかかりたくない」「薬を飲みたくない」・・・治療・支援を拒む心理をサポートする 佐藤さやか
2「このままじゃまずいけど、変わりたくない」・・・迷う人の背中をどう押すか 澤山 透
3「楽になってはならない」という呪い・・・トラウマと心理的逆転 嶺 理子
4「助けて」ではなく「死にたい」・・・自殺・自傷の心理 勝又陽太郎
5「やりたい」「やってしまった」「やめられない」・・・松本俊彦
6 ドタキャン考・・・複雑性PTSD患者はなぜ予約を守れないのか 杉山登志郎
Ⅱ 子どもとかかわる現場から
7「いじめられている」と言えない子どもに、大人は何ができるか 荻上チキ
8「NO」と言えない子どもたち・・・酒・タバコ・クスリと援助希求 嶋根卓也
9 虐待・貧困と援助希求・・・支援を求められない子どもと家庭にどうアプローチするか 金子恵美
Ⅲ 医療の現場から
10 認知症のある人と援助希求・・・BPSDという用語の陥穽 大石 智
11 未受診の統合失調症当事者にどうアプローチするか・・・訪問看護による支援関係の構築 廣川聖子
12「人は信じられる」という信念の変動と再生について・・・被災地から 蟻塚亮二
13 支援者の二次性トラウマ、燃え尽きの予防 森田展彰・金子多喜子
Ⅳ 福祉・心理臨床の現場から
14「助けて」が言えない性犯罪被害者と社会構造 新井陽子
15 薬物問題を抱えた刑務所出所者の援助希求・・・「おせっかい」地域支援の可能性 高野 歩
16 性被害にあい、生き抜いてきた男性の支援 山口修喜
Ⅴ 民間支援団体の活動から
17 どうして住まいの支援からはじめる必要があるのか・・・ホームレス・ハウジングファースト・援助希求の多様性・つながりをめぐる支援論 熊倉陽介・清野賢司
18 ギャンブルによる借金を抱えた本人と家族の援助希求・・・どこに相談に行けばよいのか 田中紀子
19 ゲイ・バイセクシュアル男性のネットワークと相談行動 生島 嗣
○ 座談会「依存」のススメ・・・援助希求を超えて 岩室紳也×熊谷普一郎×松本俊彦