拡がるネット上の誹謗中傷・バッシング
ネット上の執拗な誹謗中傷を繰り返す人は、どのような人格特性をもっているのでしょうか
「ダーク・トライアド」は3つのパーソナリティ特性を持つと言われています
サイコパシー(psychopathy:反社会人格障害特性)
ナルシズム (narcissism:自己愛性人格障害特性)
マキャヴェリズム(Machiavellianism:権謀術数主義の特性)
誹謗中傷(ネットいじめ)やヘイトスピーチを執拗に繰り返す人はどういう人なのかを知ろう
パリ五輪でのアスリート等への誹謗中傷が大きな問題になっていますが、それ以前からネット上に他人への誹謗中傷が溢れていることは、既に私たちの日常になっています。
インターネットは2000年頃から広く認知されはじめ、2010年以降には個人が持ち歩くスマートホンが急速に普及しました。それに伴って、「ネットいじめ」「誹謗中傷」を受けた人たちが自殺する事件も多く発生するようになりました。
最近は、芸能人、アスリートなどの有名人へのバッシングも激しさを増しています。子どもたちの世界でもネットいじめが日常的に拡がり、子ども社会が大人社会を鏡のようにそのまま映しています。
また、特定の個人への中傷や攻撃だけでなく、社会的弱者やマイノリティに向けられるネット上のヘイトも日常的に執拗に、根強く続くようになりました。
具体的には、国内では精神疾患や発達障害をもつ人たち、生活保護受給者、性的マイノリティ、同和地区に住む人たち、外国人移住者、在日韓国朝鮮人、アイヌ民族、沖縄に住む人たち、過疎地に住む人たちなどに向けられる執拗なヘイトがあります。
実際に現在、「はてなブックマーク」では、「職場のADHDのAさんが辞めてくれて嬉しい」というタイトルで、ADHDの発達障害をもつ人へのヘイトを投稿している人がいます。その差別的で煽情的な内容のためか、読者の賛否がぶつかり合って、ランキングの1位になっています。(2024年8月4日現在)
投稿者と同じ職場で働くAさんのADHD特性の詳細な描写に、侮蔑を込める残酷な表現を読むだけで投稿者自身に独特の特性を感じ取れます。その障害者への排除の論理は、Aさんの人格を否定し、抹殺するに等しいものです。きっとこれを目にしたADHD特性を持つ人たちは社会への恐怖を感じるはずです。
私はその障害者への敵意の強さや悪意に満ちた冷淡さに、「障害者は不幸しか作らない」と言った植松聖(死刑囚)によって19人が殺され、26人が負傷した「相模原障害者施設・津久井やまゆり園殺傷事件」(2016年7月)を瞬時に連想しました。
「ダーク・トライアド」とは
他者へ劣等感や嫉妬心を強く持ち、現実の自分に不満や歪んだ正義感を持つことで、他人を侮蔑的に攻撃して中傷をする人たちも多くいますが、その中でも、罪悪感なく執拗に相手を追い詰めて攻撃を続けているコアな人間が全体の1%未満存在します。
このような人間を研究、分析している心理学者、精神科医、弁護士などの見解では、「ダーク・トライアド」という人格特性をもつ人たちであるとされています。
「ダーク・トライアド」の3つの人格特性
サイコパシー (psychopathy:反社会人格障害特性)
反社会的で冷酷。他人への思いやりがなく、強い敵意をもって相手を傷つけます。反省せず、罪悪感をもつことはありません。
ダーク・トライアドの人格特性の中で最も悪意があると考えられています。共感性が低く、衝動性やスリルを追求します。
ナルシズム (narcissism:自己愛性人格障害特性)
自意識過剰で自惚れが強く、自分のことが他の誰よりも大好きで傲慢です(強い自己愛傾向)。自己中心的で他人に対する共感がありません。
ナルシストは自分自身に過度に夢中になり、周囲から褒められることや誇大なセルフイメージを持ち続けることに躍起になる傾向があります。自分の優越性を示すために生きています。
マキャヴェリズム(Machiavellianism:権謀術数主義の思考特性)(イタリアのマキャベリが語源)
自己利益のためなら手段を選びません。冷笑的で他人を軽視し、操作して利用することが人生の成功のカギであると信じています。
強い自信とともに警戒心も強く、良心の欠如、感情の欠如がみられます。協調性・誠実性ともに低いことが報告されています。
最近の研究では、ネットの誹謗中傷を執拗に繰り返す人は「ダーク・トライアド」の性格的特徴を持つ傾向があると言われ、自己愛、サイコパシー(反社会)、マキャヴェリズム、第4の特性であるサディズム、の兆候を示すことがわかっています。
サディズムは残酷さを楽しむので、反社会的な活動とネット上の炎上の間には多くの類似点があることが示唆されています。ネット炎上は日常的なサディズムといじめの、ネット上での症状であるとも言われているのです。
「ダーク・トライアド」の特性が、生得的なものか後天的なものかは研究の途上であり、治療を要するものであると言われますが、社会で一定の成功を収めた人間である場合も多いために社会適応上機能しているとも言われています。古今東西の世界の国家の権力者の中にも当てはまる人間が何人か思い浮かぶはずです。
国家の大義を掲げて権力者たちが人権を弾圧したり、戦争で多くの市民を巻き込んだりしている現実を見るときに、その人間性を疑う行為を平気で行える人格特性があると考えなくては理解できないことが多いはずです。彼らは一様に冷酷で自分の目的のためには手段を選ばず、人々を巧みに操作し、扇動することに長けています。
国家や民族の紛争から、私たちの平凡な日常生活から見られるネット上の他者への誹謗中傷まで、現在拡がって顕在化してきている憎悪や侮蔑の連鎖は、どこかでつながっているのではないかと考えられます。
それを執拗に続ける人間のDNAはいつの時代にも受け継がれている要素であり、「ダーク・トライアド」の人格特性もその中のひとつだと考えられます。
誹謗中傷を受けた時の対応
誹謗中傷する相手に向き合って、理解を得ようと努力することはたいへん危険です。
「ダーク・トライアド」特性の人が、その中にいるかもしれません。被害者が真剣に何か言えば言うほど、苦しむ姿をもっと見たがるでしょう。被害者は、まず誹謗中傷の加害者とは分かり合えないとしっかりと理解してください。
大事なことは、絶対に直接相手にしないことです。心の中の距離を置いて、書き込みを見ないようにします。「関わらない」ことが大事です。それは確実にあなたの健康を蝕むからです。
また、同じ職場や学校で嫌がらせを受けた場合でも、相手が「ダーク・トライアド」である場合もあります。どんなに話し合っても正論が通じないばかりか、さらに嫌がらせがエスカレートすることの方が多いので、できるだけ関わらないことを第一に考えてください。口論しても相手はあなたに言われたことを詳細に記憶していて、何年経っても忘れずに復讐の機会を狙うかもしれません。
誹謗中傷を受けたあなたへ~ひとりで抱えずに身近な誰かに相談しましょう
悪いのは誹謗中傷をしている人間です、彼らは最初から悪意でやっているのです。
相手はあなたの罪悪感や自責の念を上手に操ってダメージを与え、その様子を楽しんでいるだけです。そして弱みに付け込んで、巧みにあなたがひとりで抱え込むように仕向けています。
一連のトラブルは、けしてあなたのせいではありません。それを確認するためにも信頼できる人や専門家に相談してみましょう。
たとえあなたが自分の命懸けで加害者に苦しみを訴えたとしても、相手に通じることはありませんし、微塵も後悔させることもできないでしょう。良心も罪悪感もなく相手は軽いノリで冷淡に楽しんでいるのですから、あなたが命を懸ける価値などまったくないのです。
また、法律家に相談することで、直ぐには解決しなくても法的な措置によって相手が身バレして刑事罰になることもあります。傷ついて自信を失っているあなたの味方をひとりでも増やして、支えてもらうことがなにより大切です。
なんの価値もない卑劣な誹謗中傷から、あなただけの「今」と「これからの時間」の健康を守っていくことが、あなたにとって最も大切なことであり、誹謗中傷を許さない人間社会の構築にも必要なことなのです。