リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

感覚過敏は自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性の一つです

ASDの人たちには、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)に感覚過敏がある場合が多くあります。それぞれの人によって感覚過敏がある知覚や程度、対象などは違いがありますが、それらが日常生活に支障をきたしていることが多くみられます。「敏感」ではなく「過敏」なのです。

感覚過敏とはどんなものか、当事者たちの声を参考にして考えていきます。(参考資料:「発達障害を生きる」集英社

Dくんの訴え(実際のケースとは内容を変えています)

 何年も前のことです。夏休みの前に、久しぶりに面接にやってきた中学1年生になったDくんに会いました。半年ぶりに見るDくんは背も高くなり肩幅も拡がって、少し大人びたカジュアルなオシャレな服装も彼の成長として、私の目に飛び込んできました。

 母親を自分の脇に座らせ、テーブルの中央に私と向き合って座ったDくんは、柔らかい笑顔を浮かべて挨拶をして、少し身を乗り出して話し始めました。

「僕の不登校の原因がわかりました。僕、感覚過敏だったんです。自分では小さい頃からずっとこんな感じだったし、当たり前だと思っていたんですけど、病院で感覚過敏だと教えてもらいました。」

「僕の感覚過敏は、まず聴覚で、教室のザワザワが皆より大きい音に響いて聞こえています。街中でも人が多い混んだ駅なんかも苦手です。大きい音もすごく怖くて。」

「視覚の方は、昼間に外に出ると光が白く拡がってすごく眩しいんです。あと、学校で使う絵具や作業の材料のベタベタしたものや、においの強いものはとても苦手です。」

「学校では、デジタル耳栓やイヤーマフ、サングラスを使う許可を取りたいと思っています。適応指導教室でも利用したいのですが、言っても大丈夫ですか?絵具や作業の材料についてもダメなものは言ってもいいでしょうか?」

「もちろん大丈夫ですよ。私から伝えておきますから、我慢しないで申し出てください。と私は応じました。Dくんの少し声変わりした、弾むように明るい声が成長の余韻として私の中に残ったのを憶えています。相変わらずお母さんが口を挟むとキッと睨む所は変わっっていないので、苦笑してしまいました。

小学校入学から苦しんできたDくん

 Dくんは小学校低学年から登校渋りがあり、時々休みながら断続登校していました。5年生までは何とか頑張ったようですが、6年生の夏休み前から徐々に欠席が増え始めて、登校できる日が少なくなっていきました。本人には学校に行きたい気持ちが素直にあり、秋ごろから適応指導教室の少人数で過ごす日を作りながら、行けそうな日には登校を続けました。

 生真面目で、面接でも敬語・丁寧語を崩すことなく、極めて礼儀正しく自分のことをしっかりと話す小学生6年生でしたが、母親と一緒の面接で母が自分のことについて口を挟むとキッと母親を睨むのが印象的でした。母親はそれには慣れている様子で、母子関係に心配はなさそうでした。生育歴・家族歴を母親から聴き取り、日常生活での健康度や行動、性格、学校の不適応の状況や適応指導教室での様子などの情報を総合して、みたてていきました。家庭でのQOLも保たれ、適度に外出をするなど心身の健康度は安定しており、本人の特性から自閉症スペクトラム障害ASD)の傾向がベースにあると判断しました。その後の面接では、不調の時に無理な登校を続けないことや苦手な場面の回避の仕方など話し合っていきました。

 今まで療育や医療には相談歴がなかったため、中学校に入学する前に一度受診して検査を受けるなどして、自分の長所を見つけて伸ばしていくことを勧めて、小学校での相談が終了していました。

ASDの多くの人たちにある感覚過敏(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)とは

視覚過敏

 例えば、視覚過敏の場合、Dくんのように外での光が眩しい人もいれば、室内でも室外の光がカーテンの間から差し込むだけで、眩しすぎて目が痛い人もいます。教室の蛍光灯の光が白い紙に反射して文字が虫食いになって見える人もいます。

 対応は、部屋のカーテンを下ろしてその人に合った照度の部屋で学習する。サングラスや、レンズに少し色がついたPC用のメガネを使用する。文字が反射しにくいやや色の入った紙での印刷物にするなどが考えられます。

聴覚過敏

 聴覚過敏の場合は、聞こえる音域が広く、ノイズも含めて大きな音量で聴こえてしまうために、音が多い街中や人の集団が過ごす教室などで過ごすことが苦しくなります。

 拾いやすく不快な音などは人によって違いますが、例えば空調の音、蛍光灯のチリチリ音、時計の秒針の音、スーパーの冷蔵棚の音などの微細な機械音や、救急車のアナウンスや電車の通過音、ブレーキ音、商店やパチンコ屋、車のクラクション、集団での拍手の音などの大きな音、他人が食べ物を食べる咀嚼音、ガヤガヤする休み時間の教室の話し声など、他の人の多くが比較的平気でいられる音に対して強い驚きや恐怖、不快などを感じて身体が強く反応してしまったり、気持ちが悪くなってしまったりします。

 対応は、イヤーマフやイヤホン、耳栓(現在はデジタル耳栓が販売されています)など行いますが音は聞こえているので100%ではありません。静かな学習環境が必要なのは言うまでもありませんが、学校の教室では長時間集中して授業を聴くのは疲れてしまうことがあるので、一日何時間までと決めなくてはならない人もいます。また、食事の時間には個室で摂らせるなどの配慮も必要です。

味覚過敏

 味覚過敏は、食べ物の味と食感に過敏があるために、好き嫌いが激しくなります。わがままだと思われることが多く、学校給食に苦痛を感じることが多くみられます。無理をさせると吐くこともあるので、注意と理解、本人に合わせた合理的配慮が必要です。

嗅覚過敏

 嗅覚過敏は、におい全体に過敏な場合と、特定の苦手なにおいに過敏で強く反応して吐き気を催してしまうこともあります。味覚と同じように合理的配慮が必要です。

触覚過敏

 五つ目に触覚過敏があります。身体を触られたり、手を繋いだりすることでの刺激が非常に苦手です。爪切りや髪の毛をとくこと、シャワーなどに痛みを感じることもあります。服の生地や、タグ、服の形、靴下のゴム、メガネやマスク、ヘッドホンなど体に触れる部分に違和感があるために配慮を要します。また、特定の触感に苦手を感じることもあります。ベタベタしたものや、水などを触るのが嫌な人もいます。

 子どものころは言葉で説明できず反応が強く出やすいために、「どうして嫌なの?」と相手に思われるので理解されるまでには苦労することが多いでしょう。

 また触覚過敏があると、逆に「感覚鈍麻」がある場合もあり、脚を捻挫していても気づかない例もあるので注意が必要です。

長い間、注目されなかった感覚過敏

 少なからず、五感に敏感さをもっている方は多くいると思います。見ているものの違いにすぐ気づく、嫌いな音がある、食べ物の好き嫌いがある、古い食べ物の臭いにすぐ気づく、服のタグが気になって取るなど、他人よりも少し敏感な所をもっているのは珍しいことではありません。ですから多少「感覚過敏」の気持ちはわかるかもしれませんね。しかし、「過敏」は「敏感」とは違って、日常生活に支障をきたし、健康を阻害するほどの苦痛を伴うため、過敏をもっている当事者しかその苦しみはわかりません。

 しかし最近まで当事者の声が聞かれることはなく、当事者が人知れず苦しみ続けてきた歴史の方が長いのです。食物アレルギーが問題になり、給食での配慮が当たり前にはなりましたが、感覚過敏に対する対応は殆ど進んでいません。視力が悪くなってメガネをかけることに学校の許可が要らないのと同様に、感覚過敏の子どもへの合理的配慮がもっと積極的に行われなくてはいけません。ひとりひとりの子どもの生来の気質や特性に目を向けて、皆と同じであることに苦しむ子どもを出さない教育環境づくりが、激増する不登校対策の第一歩にもなり得ると思います。

 Dくんがもっと早く感覚過敏に苦しんでいることがわかって対応ができたら、彼の小学校生活はどれほど快適なものになっただろう。そう思うと、どれほど苦しかったのだろうと胸が痛むのです。

 中学入学時に自分が感覚過敏だったことを知ったDくんは幸いなことに、比較的元気に適応指導教室と中学校の登校を併行させながら卒業しました。三年生の時の担任の先生がDくんに理解を示してくれたお陰もあって、学校との信頼関係を自ら作り、通信制の高校への進学も果たしました。

 自分の苦しさが、大げさでも甘えでもなく「感覚過敏」だったという事実がDくんを支えたのです。