リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

子どもの発達障害への支援~進まない理解と根強い偏見

発達障害」は診断名ではありません。四つの障害の総称する社会的概念です

 近年「発達障害」はメディアでも多く扱われるようになり、広く知られるようになりましたが、まだまだ誤解や偏見が多いように思います。正確な情報や、学校現場での取り組みの紹介などが十分に伝えられていないために、本質的な理解が進んでいないのです。

 まず、経緯から説明すると、「発達障害developmental disorder」という概念は1987年DSM-Ⅲ-R(アメリカ精神医学学会の診断分類マニュアル)に登場した医療の「診断名」でしたが、1994年DSM-Ⅳで再分類されて、「発達障害」という「診断名」は消えました。

 しかしその七年間で「発達障害」の概念が社会に定着し、一般的な概念として日常的に使われるようになったのです。

 

 現在、日本の精神医学領域では、以下の四つを合わせて「発達障害」と総称されています。

① 知的障害(MR:Mental Retardation)

 IQが70以下で、社会生活上の適応において援助が必要とされます。

自閉症スペクトラム障害ASD:Autism Spectrum Disorder)

「社会的コミュニケーションの障害」と「限定された興味」の2つを満たすとDSM-            5では定められています。男児は女児の4倍の性差があります。また約30%が「知的障 害」を伴うとされています。

コミュニケーションや言語に関する症状や常同行動を示すなどの様々な状態を「連続体(スペクトラム)」として包含した「診断名」になっています。

③ 特異的発達障害学習障害LD:Learning Disabilities)

知的障害ではない(IQは70以上)が、読字障害、書字障害、算数障害があります。

聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなど能力の困難があります。

④ 注意欠如多動性症(ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)

知的障害ではない(IQ70以上)が、不注意、多動性、衝動性、集中の困難があります。

約60%が学習障害(LD)を伴うと言われています。

それぞれの障害の「特性」を持っていても、人間には一人一人に「個性」があります

 四つの共通点は、平均的な発達(定型発達)に比べて、認知機能の発達に何らかの「遅れ」を持っている点にあります。また、それぞれが相互にクリアカットできない重複がみられ、その程度もまちまちです。そして必ず一人一人の生活環境などの違いや個性があります。

 したがって発達障害の支援には、障害のもつ特性の理解と共に、一人一人の「特性」のもち方にも様々な違いがあることを理解する必要があります。しかし、現実は「遅れ」そのものが日常の社会生活上の「生きにくさ」に繋がる可能性がある上に、個に応じた支援が届かないことで二次的に更なる「生きにくさ」をもたらしている場合も多いのが現実です。

例えば「ASDの子どものよくある特性とは

 同じ「ASD」の子どもでも、相手の意図を読んで対人関係を築くことが苦手な傾向は同じでも、それぞれ得意な部分や苦手な部分の違いがあり、個人内での能力差もそれぞれ異なります。

 「高機能のASD」の子どもの一面をみると、言語的な情報処理に長けていて歴史文学や科学分野が好きな子ども、細密な視覚的な情報処理に長けていて美術や映像、細かい細工等の製作が好きな子ども、絶対音感があって聴覚的に微細な楽器音の聴き取りや機械音の聞き分けなどが得意で音楽や精密機械に興味を抱く子ども、数学の計算や数概念に長けていてプログラミングに興味がある子どもなど、枚挙にいとまなく多様な個性と才能に満ちています。

 しかし一方では、個人内の能力の長短の差が大きく、バラツキや偏りがあるために興味関心に偏りがあり、一つのことへの「こだわり」も強くなるのです。どこにこだわるかは個々に違っています。前述のような高機能が多く話題になりますが、実際は知能レベルも様々で、「知的障害」を伴う子どもも約3割存在します。

 また、「五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)」に「感覚過敏」がみられることが多く、それぞれ敏感な所にストレスを感じています。例えば、情報や騒音、異臭、身体接触に溢れている集団生活や同じ時間内で横並びでの作業、他人が食べる音を聞き、咀嚼する口を目にしながら同じものを時間内に食べる給食などに強いストレスを感じ続けなくてはならないのです。

例えば「ADHDの子どもの特性とは

 「ADHD」の子どもは、端的に言うと脳のテンションが低く(いわゆる「落ちている」状態に似ています)、周囲の刺激を感じて集中しにくいので、余計に集中しようとするために「不注意」「多動性」「衝動性」が現れやすく、集中しすぎて他のことを忘れるほど没頭してしまう、と言われています。

 「勉強嫌い」だから立ち歩く、興奮しやすい、知能が低く学習が理解できないなどと「誤解」されているケースはたくさんあります。「不注意」「多動性」「衝動性」には個人差があります。「不注意」だけで「多動性」「衝動性」がない場合を「注意欠陥障害(ADD)」ということもあります。

求められる一人一人に合った支援の実践

 こう考えてくると、「ASD」や「ADHD」の傾向が重複していたり、更に「LD」があったりするケースを想像するだけでも、「発達障害」と一口に言っても個人の特性が複雑で多様であることがわかってきます。各障害の共通した特性&個人レベルでの濃淡、障害の重複、発達段階、生活環境、家族関係、持って生まれたパーソナリティなど、多くの要因が複雑に組み合わさっているのです。

 また、実際に診断はされなくても少なからずそれらの傾向をもってストレスを抱えながら、外からは見えないようにして社会適応している人たちもたくさんいることを知っておくべきです。

 一人一人への深い理解と適切な配慮があってはじめて、その人への支援に繋がるのです。

発達障害をもった子どもが、「皆と同じ」ようになることには大きな苦しみが伴います

 日本の学校の現状を考えると、「発達障害」の傾向のある子どもに対して、全面的に特別扱いをしなければ差別だ、無理解だというつもりはありません。

 でもちょっとだけ学校には「えこひいき」をして欲しいのです。

 実際に、聴覚過敏用のイヤーマフや耳栓、視覚過敏のサングラス、別室での給食、教室の机の周りのパーテーション等を認めている学校もありますし、多くの学校では子どもによって集会やイベントへの参加や人前での発表の免除をするのは定着していると思います。

 おそらく授業中や学級活動で発言や読字、書字が苦手な子どもには、ちょっと待ってあげる、「ゆっくりで良いよ」と声をかける、「今日はやらなくて良いよ」と言ってあげる、少しでも自分でやろうとしていることを褒めるなどを意識している現場の先生たちも多いと聞いています。

 

 しかし「発達障害」をもっていて、不登校になる子どもの数はとても多いのです。

 不登校になった経緯を保護者や本人から聞き取ると、何となく徐々に登校がキツイと感じ始めて、体調を崩したり朝起きられなくなったりして不登校になるケースと、明らかに学校の同質を求められる集団生活、無理解や叱責、いじめ、友人トラブル等によって傷ついたり、そのことがトラウマになっているケースが多くあります。

 いずれも、それらの背景には「皆同じようにやることへ暗黙のプレッシャー」があるように思います。

特別扱いは際限がないものか

 「特別扱いを一人でも認めると、皆がやりたがる、際限がなくなる」という言葉は、今でも学校の中から少なからず聞こえてきます。それも根強く、強いメッセージとして聞こえてくるのです。

 これは被害者意識の塊のような念仏です。「甘い顔をすると足下を救われるぞ」「みんな同じ、それで平等だ」という本音が見える教育に未来はありません。子どもを「ほんのちょっとだけ助ける」ことすらしない「救わない教育者」である自分への言い訳なのです。

 「特性」は別の見方をすれば「才能」であり、人間の可能性でもあります。実際にはその才能によって多くの分野を切り開いた先駆者たちがいて、今の世界があることを忘れてはいけません。今の時代に傷ついた子どもをみていると、先駆者たちもきっとその時に多くの偏見や嘲笑に晒されたことが容易に想像できるのです。

最後に、東田直樹さんの言葉を添えておきます。

「成功体験というのは、課題ができることだけではありません。いちばん大事なのは、次もやってみようと思えることです。」    東田直樹

※東田直樹さん・・・作家。1992年千葉県生まれ。会話ができない重度の自閉症者。

パソコンと文字盤ポインティングでコミュニケーションが可能。

13歳の時執筆した「自閉症の僕が跳びはねる理由」で理解されにくかった自閉症の内面を言葉で伝え、同作は30か国以上で翻訳され、世界的なベストセラーになりました。

東田直樹 オフィシャルサイト - Naoki Higashida Official Site (naoki-higashida.jp)