リフレーミング(reframing)してみよう

~「リフレーミング」は心理学の家族療法の技法で、これまでと異なる角度からのアプローチ、視点の変化、別の焦点化、解釈の変更という「フレーム」の架け替えによって、同じ「絵(状況)」でも違った見え方になり、自分や相手の生き方の健康度を上げていくことを言います。この能力は誰しも潜在的にもっていると考えられています。 これから私が書いていくことは、ジャンルを超えて多岐に渡ることになりますが、自分の潜在能力を使って、いま私たちの目の前にあること、起こっていることの真実に少しずつ近づいていけたらと思っています。

不登校・親だって学校に行きづらい ~親のしんどさを支えるには

学校に相談に行くのはあたり前なのか

 「文科省が発表した2022年度の全国小中学校の不登校児童生徒数29万9048人のうち専門機関への相談がないケースは約11万4000件。18万5000件(61.8%)は専門機関への相談をしている」と10/26の記事で紹介しました。

 専門機関(医療機関や、スクールカウンセラー自治体の相談センターなど)への相談にすることで、子どもへの理解が深まり、学校での適正な配慮にも繋がる場合も多いと思います。そして多くのケースは継続的な相談が必要です。統計では、単発の相談なのか継続相談なのかはわかりませんから、計上されたものがすべて安心というものでもありません。

 また、専門機関の相談ではなく学校の担任の先生と話し合っているケースもあり、専門機関への相談がないから子どもの様子がわからない訳ではありません。学校での別室登校の受け入れをしている学校では、教員やスクールカウンセラーが直接子どもの行動観察をしながら、声掛けをしている場合もあるので、学校の支援状況をみている感触でも「子どもの様子がまったく見えないケース」は10~20%くらいではないかと推測できます。

 

 多くの学校では登校渋りや不登校傾向があると保護者と話し合いをもち。必要に応じてスクールカウンセラーなどの専門家の相談を紹介しています。学校から見ると積極的に相談に来校する保護者は教員に安心を与えますが。なかなか相談や家庭訪問に前向きでなく、学校からの電話が繋がりにくい場合などは、「問題ありの保護者」というラベルが貼られやすいのも事実です。

 実際、保護者も仕事や家庭の多様な事情を抱えているので、学校の希望しているような話し合いや相談が進まないことも多いのです。学校側が保護者の状況をくみ取って事情を聞いて配慮しながら柔軟に対応できれば、関係が切れてしまうことは少ないと思われますが、「不登校対応マニュアルに従ってやれば良い」という雰囲気の学校では関係性がギクシャクするケースも出てきています。学校側の根っこにある「保護者が相談するのはあたり前」という姿勢が邪魔をして繋がるチャンスを逃してしまうのです。

 不適応気味の子どもの気持ちは想像しても、なかなか保護者の気持ちまでは想像しにくいということでしょうか。

学校との付き合いはつらいことが多い・相談のハードルは高い

 子どもが学校不適応を起こしたり、生活が不安定になったりすると、多くの親たちは自分の養育を振り返り、何か間違った対応をしてきたのか?何が足りなかったのか?とまず自問自答します。同時に学校で何かあったのか?と思うことでしょう。そしてまず担任の先生と話し合うのが一般的な流れです。その後スクールカウンセラーに繋がり定期的に相談面接をしている親でさえ、養育への自責の念をどこかに持って相談するその思いにはとても複雑なものがあることは意外に知られていません。相談するにはとても勇気がいるのです。

 不登校の子どものケースの相談面接で保護者からこんな話を伺いました。(ケースは実際のケースとは変えています)

〇保護者の相談日は、子どもに「学校に行って、話してくるね」と声をかけて、面接の開始時間ほぼジャストに着くように時間を気にしながら出かけます。登校していた頃には交流があった人たちとも疎遠になっているので、学校の近くであまり知り合いに会いたくありません。校門に着くと体育の授業を校庭でやっていて同世代の子どもが元気な声を響かせています。「この時が一番辛くて」、と声を詰まらせながら、話してくれた母親がいました。

〇シフトを調整して、明日は相談日かと思いながら、仕事帰りの電車の駅で同世代の子どもたちが友達同士で楽しそうに談笑しているのを見たら急に涙が流れて、止まらなくて、しばらくベンチに座っていました、と話してくれた母親もいました。

〇子どもが不登校になってから学校に毎朝欠席連絡をしていました。でもある日から電話が怖くなってかけられなくなってしまって、とある母親は言いました。「生存確認ですから毎日かけて」と担任から言われたそうです。

〇過去にストーカーの被害経験のある母親は、毎朝の欠席連絡がつらくて出来ない日には昼頃、必ず担任から電話がかかってくるのがきっかけになり、過去のトラウマを思い出して電話に一切出られなくなりました。

〇担任から強く注意を受けたことがきっかけで不登校になった子どもの母親は、強い不信感を学校に抱きながら、無理解な担任の気持ちを変えようと子どもの特性を説明しに何度も話し合いを続け、うつ病になりました。担任は「お母さんが子どもに甘いことが原因」という姿勢を終始崩すことがなかったそうです。

 保護者が積極的に学校と関わることで子どもが救われるケース多いと思いますが、その半面、保護者がしんどくなることが多いことも学校は十分に知っておくべきです。これは、学校外の相談機関での支援が長かった私の率直な感想です。様々な葛藤を抱えて孤立を深めながら日常生活を続けている当事者には、教員との付き合いはつらいことが多くあり、専門家への相談のハードルも学校が思っている以上に高いものなのです。

 保護者の方々には、子どもと学校との繋がりを切らないために、子どもと親が健康度を保てる学校との距離を、定期的に学校と話し合って決めておくことをお勧めします。また、保護者と子どもとではそれぞれ学校との距離感が違っています。保護者には不要と思えても「見えない橋でも架けておくこと」は子どもにとって無駄にはならないと思います。

保護者の子どもへの思いを受け取ることの難しさ

 最近は、発達障害傾向の特性をもった子どもの社会的認知度が上がり、理解が進んでいる一方で、子どもの理解と配慮を学校に求める保護者が、学校の無理解と正面衝突してしまうようなケースもあります。その多くは、保護者が専門知識を持っていて、学校が驚くほど無知な場合です。学校からクレーマーのような扱いを受けて絶望を訴えた保護者を何人も知っています。

 外部の相談では、学校がクレーマーと考えるような保護者が、長期の相談に繋がるケースは珍しくありません。ケースワーク上、学校と連携するためのケース会議などでその学校の先生方と出会うと、最初から保護者担当のカウンセラーの私をまるで原告側の弁護団でも見るかのように警戒、敵視しているので、学校が保護者に向ける目線がとても良くわかるのです。

 私は自分の中に負の感情が出てくるのを感じながら、保護者の顔を思い浮かべて、「こういう学校には行きたくないよね」「本当に良く頑張ってきましたね」と心の中で声をかけるのです。

学校の支援への力量が試されている

 感覚過敏、対人交流の苦手、情報の同時処理の困難、書字・読字・算数のLD、大きな集団への恐怖、集団行動の苦手、集中力の持続の困難、偏食などの特性をもつ、発達の偏りや凸凹のある子どもたちはとても多く存在しています。それぞれの子どもで程度や個性が異なっています。またそのことに家庭の養育が関係して複雑化しています。

 特性があっても、学校では我慢しながら周りに合わせて生活している子どもが多いのではないかと思います。しかし合わせることに苦痛を伴うほどの特性が強くある子どもは、徐々に学校生活を送るエネルギーを失ってしまうのです。

 乳幼児健診(4カ月・1歳半・3歳)で発達面の課題を指摘されて、早めに療育に繋げて子どもの発達面を詳しく学んできている保護者ほど、早め早めに保育園・幼稚園と話し合って適応を図ってきています。就学時検診から入学に向けて学校と話し合い、学校生活の適応に向けて進んでいくのは至極当然の流れです。親子は支援を受けることにも順応していきます。

 小学校入学後に不適応が出て、初めて発達の課題をもっていることがわかる子どももいます。学校の知見と発見力、情報共有力やノウハウが、子どものその後の進む方向を分けるとも言えます。その結果、多くの子どもたちが一定の配慮の上に学校適応を続けてきているのも事実です。

 でも、そうでないケースも実に多いのです。まったくノーマークで中学校に入学し、途中で不登校になって初めて発達課題がわかるケースが大変多くあるのが現実です。また、中学校でも「生徒指導上、特別扱いはできません」式の悪しき平等主義が、個別の配慮を要する支援を阻んでいる場合も未だにみられます。

 不登校数が激増し、コロナ禍の影響が子どもたちの成長・発達の上に現れている今、「支援の知見」に力量のある教育実践が学校に求められています。