GWを前に、新卒や異動などでの新しい職場環境や、進級進学での新しい学校環境に少しずつ慣れてきているところでしょうか。
順調な人、疲れが出てきた人、不調を抱えている人、それぞれが今の環境の中で感じられる自分を振り返りながら、「健康に働き、学ぶ」ことを考える良い機会です。

職場や学校でのメンタルヘルスの不調について、最近はメディアでも多く取り上げられるようになってきています。
不登校は小中学校で34万6482人(前年比15%増)高校生6万8770人(前年比13.5%増)(いずれも2023年度文科省)。公立学校教員の休職者数は7119人(在職者の0.77%)(過去3年間最多数を更新中)。
厚労省調査では、職業で強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6割に上り、メンタルヘルス上の理由で過去1年間に連続1か月以上休業した労働者の割合は0.6% となっています。事業所規模が大きいほどその割合は高く、心の健康問題により休業する労働者への対応は、事業所にとって喫緊の課題になっています。
メンタルヘルスでの休職者が多い業種は「医療・福祉」「教育」「情報・通信」「金融・保険」「製造業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「複合サービス」などとされ、長時間労働、人間関係の悪化、業務の責任の重さ、休暇の取りにくい環境などが休職者を増やす要因になっています。メンタルヘルス対策に取り組む企業は全体の6割に留まっています。
休職者が出やすい職場には以下のような特徴があるとされています。
・業務量が過剰
・業務の達成感を得にくい(不明確な評価基準、モチベーションの低下)
・社内のコミュニケーションの乏しさ、人間関係の希薄化・悪化(パワハラ・モラハラ)
・長時間労働の常態化(人手不足、納期やノルマなど)
・業務の責任が重く、精神的負担が大きい(医療・福祉、品質管理)
・休暇が取りにくい職場環境・社風

今の社会では、子どもから大人まで、世代を超えた多くの人がメンタルヘルスの問題を抱えている現実がみえてきます。小中学生のヤングケアラーの問題や、働く世代の子どもの養育と親の介護のダブルケアの問題も家庭内で二重に重なり合い、そこには孤立した人間たちの姿が浮かび上がってきます。

「メンタルヘルスは社会の責任」という意識の大切さ
「不登校は甘え」「精神的不調は弱さ」「貧困は自己責任」のような考えをもつ人たちは根強く存在していますが、少しずつですが、学校や職場にも支援のシステムが導入されてきています。
実際に支援につながって健康を回復しているケースもありますが、支援へのハードルは未だに高く、多くの人が二の足を踏んでいます。また、せっかくつながっても支援側の対応が悪く、かえって傷口を広げるケースもあります。いつでも安心してつながれる支援の在り方も問われています。
それぞれの人が置かれた状況に合わせた支援や、発達障害特性などの理解の浸透、職場や学校での意識改革と受け入れ体制づくりなどが組織的に行われることが重要です。
今、出版差し止めの声が上がっている、自称心理カウンセラーの神田裕子著「職場の困った人をうまく動かす心理術」の中では、発達障害の人を「困った人」として扱い、動物に例えてその対応を書き、偏見を助長していることが大きな問題になっています。
メディアでも「発達障害と言えば何でも許されるのか」「困った人が辞めてもらって良かった」というような無理解と偏見の拡散が続いています。このような角度から不適応を抱える人間を邪魔だと嫌悪する「目線」の蔓延が、支援を阻害する大きな要因になっています。

不適応や不調に陥っている人間を鞭打つことのない会社や学校の組織(小社会)を構築するのはごく当然のことです。そのためには、共に働き、学ぶ、ひとりひとりの人間が「メンタルヘルスは社会の責任」という意識を心の中に持つことがとても重要なのです。

何がメンタルヘルスを支えるのか
自分の好不調に付き合って生活していくための自己ケアとして、前回は「セルフ認知行動療法」を紹介しましたが、今回は職場や学校の組織のメンタルケアのヒントがあると思わせる記事を見つけたので紹介します。
人間のメンタルが何によって支えられるのか、健康に働くためには何が必要かを、近年急増している新入社員のメンタルヘルス不調について書かれた記事から再認識できるのではないかと思います。
人間関係はストレッサーにもなりますが、人とのコミュニケーションがメンタルヘルスを支えるカギになっていることに気づかされます。

以下「毎日メディカル」(4月18日付)の記事「ホワイト職場なのに新人社員がメンタルヘルス不調 ITが進歩したからこそのわけ」(文・石澤哲郎:診療内科医)の抜粋です。
「憂うつな気持ちが続き、職場で泣いてしまう…」
先日、私が産業医を務めるIT会社の人事担当者から「最近休みがちな新入社員がいて心配している」との相談がありました。
田中さん(23歳・仮名)は2カ月ほど前から週1回ほど体調不良で欠勤しています。また、本来は出社するはずの日にも、急きょテレワークに切り替えて働いていたことがあるようです。
心配した上司が確認したところ、「寝つきが悪く朝起きられない」「憂鬱な気持ちが続き、職場で泣いてしまうこともある」といった話があり、人事担当者に連絡がありました。
その会社は100人程度の中小会社ですが、長時間労働やハラスメントなどの労務問題はほとんどなく、上司もサポーティブな、いわゆるホワイト職場です。過去に新入社員が体調を崩したり、休みがちになったりしたことがなく、上司や人事担当者はとても心配しています。
さて、田中さんと産業医面談をしました。田中さんはおとなしい雰囲気で、元気がなさそうですが、話してみると真面目な性格が伝わってきます。地頭もかなり良さそうです。
田中さん:「もともとITには詳しくないのですが、仕事を通じて勉強したいと考えて入社しました。ただ、求められる業務レベルと能力のギャップに気がつき、仕事を続けられる自信がなくなってしまいました。将来や仕事のことを考えると眠れなくなっています。職場の上司や先輩は『まだ1年目だから大丈夫』と言ってくれますが、適性がないなら早めに辞めた方が良いのでは……と考えてしまい、さらに後ろ向きな気持ちが強くなっています」
田中さんは地方の出身で、相談できる知人や友人が近くにいません。医療機関は通院しておらず、両親にも相談しにくいようです。
急増するメンタルヘルス不調者
まず前提として、日本のメンタルヘルス不調者数は近年急速に増加しています。特に就労世代で増加が著しく、例えば教員を対象とした統計では長期休職者の半数以上はメンタルヘルス不調が原因である、という結果が出ています。
これと関連し、精神疾患を理由とした労災件数も右肩上がりです。私が研修医になった2001年には36件だった労災認定件数は、23年には883件まで増加しています。そのため、この会社のように過去にメンタルヘルスの問題がなくても、これから生じる可能性は少なからずあります。
メンタルヘルス不調者急増の背景はさまざまですが、一因としてコミュニケーションの希薄化が見逃せません。
数年前の新型コロナウイルス感染症の流行やIT機器の進歩を受けて、コミュニケーションの主体は対面や電話からウェブ、SNSなどに大きくシフトしています。技術の発達は歓迎すべきことであり、煩わしい飲みニケーションが減ったり、テレワークがしやすくなったりしたことはプラスの変化と言えるでしょう。
一方、対人コミュニケーションはストレス原因になるだけではなく、心を守るためにも重要な役割を持ちます。皆さんも家族や同僚に相談したり、愚痴をこぼしたりした後に、気持ちが楽になった経験があるのではないでしょうか。
社会的動物である人間は、周囲との関わりが減ると自然に不安な気持ちが高まります。職場内の関係が薄れることで、「自分は上司からどう思われているのだろうか」「会社に必要とされているだろうか」など、不安になっているうちにモチベーションがすり減り、気がつくと退職することばかり考えてしまう新入社員がまれではありません。
最近は新型コロナの流行期よりもテレワークの頻度を減らす会社が増えていますが、これはコミュニケーションの及ぼす影響のバランスを取ろうとしている表れかもしれません
病気かどうかでなく、「健康に働くため」の視点を
田中さんも、仕事の悩みを周囲に相談できず困っているうちに、自己否定の気持ちが強まり体調不良につながっているようです。そんな田中さんに対して、どのような支援を行うべきでしょうか?
まず、心身の不調を訴える従業員に対して会社が労務対応を考える上では、「病名がつくか否か」という点は大切ではありません。
「うつ病だからサポートしなくてはいけない」とか、「医療機関に受診していないからサポートする必要はない」という極論は、どちらもおかしいですよね? つまり「病気か病気でないか」ではなく、「健康に働くためにどうすればよいか」という視点から対処法を考えることが重要です。
田中さんの主な問題は、仕事への自信を失って視野が狭くなり、将来が見えなくなっている点にあります。そのため、本人の同意を得て産業医面談の結果を上司に伝え、成長のためのステップを一緒に考えてもらうことにしました。
また、これまではテレワークの関係でメール相談しかできない日が多かったのですが、週に1回、短時間でも上司に直接相談できる機会を設けてもらいました。さらに、入社数年目の若手社員をメンターにして支援体制を強化しました。
このようなサポート強化により、田中さんは徐々に元気を取り戻し、勤怠も安定してきました。最近は参加しているプロジェクトが少々忙しくなっていますが、以前よりいきいきと仕事をするようになり、徐々にパフォーマンスも上がってきたようです。
職場の心理的安全性の向上にも
もちろん田中さんのようにうまくいくケースばかりではありません。例えば入社3年以内の離職率は約3割と言われています。実際のところ、学生のうちに自分の将来や適性について深く考えるのは難しいですし、必ずしも早期退職が悪とは言えないでしょう。
しかし、新卒採用が中心の我が国で、早期退職者がより良い仕事を見つけるのは簡単ではありません。また会社側としても、採用には多大なエネルギーやお金がかかります。田中さんのケースのように、うまく成長の道筋を見つけて離職予防ができれば、本人だけでなく会社にも大きなメリットがあります。
「ハインリッヒの法則」にもある通り、1人退職者が出た場合には、その周囲に同様の悩みを抱えている人が複数いると考えるべきです。目の前の1人をサポートすることは、職場全体の心理的安全性の向上にもつながることを忘れないでください。
いかがでしょうか? 産業医に相談が来るケースは二つとして同じものはなく、日本で働く数千万人の従業員がそれぞれ別の悩みを持っていると言っても過言ではありません。その全ては解決できないとしても、正しい知識を持つことで防げるリスクは少なからずあります。
これからさまざまなケースを見ながら、就労世代の健康支援について一緒に考えていきましょう!
【以上記事の抜粋】
→ホワイト職場なのに新入社員がメンタルヘルス不調 ITが進歩したからこそのわけ | 毎日メディカル
